同じ電車の男子高校生が気になる

 ◇
  

 次の日は火曜日で、朝、先輩はいつも通りだった。

「おはよ。寒いね」
「おはようございます」

 昨日と同じように横にきて、俺にくっついてきて暖を取る先輩を見てほっとする。
 昨夜はもうすぐお互い期末試験だからという理由でトーク画面でのやり取りはすぐに終わってしまった。雰囲気が少し変だったかもと思っていたけど、今日は全然普通だ。
 好きだと自覚してしまったから、先輩がすぐ横にいると俺がドキドキしてちょっと緊張する。

「昨日ごめんね。前田君といたのに話しかけちゃって」
「そんなことないです。せっかく帰りに先輩に会えたのに、話せなかったのでもったいなかったなって思ってました」

 思い切って口に出してみたら、先輩は俺のマフラーに顔を埋めたまま言う。

「じゃあ、テスト終わったら帰りも一緒に乗る?」
「……いいんですか?」

 思わず弾んだ声が隠せなくて、横を向いて先輩のつむじをまじまじと見た。
 先輩が顔を上げて、うん、と頷いてくれる。

「期末やってるうちは変則的だから、終わったら時間合わせよ。乗る電車決めてホームで待ち合わせすればいいし」
「そうですね。わかりました……といっても、もうすぐ冬休みになっちゃいますけどね」
「年明けても一緒に帰ればいいよ」
「その言葉、会わない間に忘れないでくださいよ」
「みずきもね」

 誘ってもらえたのが嬉しくて、顔が綻ぶ。
 冬休みは先輩に会えないから寂しいと思っていたのに、今から年明けがものすごく楽しみになった。

「前田君に誘われても、断らなきゃダメだから」

 ぽつりと呟かれて、俺は瞬きする。

 これって嫉妬……?
 いや、違うか。そんなわけないか。昨日はさらっと受け答えしてた気がするけど、先輩、実は人見知りするタイプなのかな。

 でも、もし本当に前田を気にしてるんだったら……?

 と、仄かな期待が胸にもたげたが、先輩の次のセリフで俺は固まった。

「彼女とかなら別だけど」
「……それを言うなら、先輩じゃないんですか?」

 やっとそれだけ、平静を装って声に出した。

 先輩に彼女ができるという可能性を、俺は忘れていた。
 けど、クリスマスの前だもんな。可能性は十分にある。先輩だし、絶対周りがほっとかない。虎視眈々と先輩を狙ってる女子達に毎日囲まれてるんだから。
 いつ現れるかわからない先輩の彼女に対して、メラっと嫉妬が燃え上がる。
 彼女なんてできないでほしい。
 ずっとこうやって、先輩と電車に乗っていたい。
 先輩の人気ぶりを見たら、無理な望みだってわかってるけど。

 切ない気持ちになって俯いたら、先輩がうーん、と言って俺の問いに答えた。

「俺は彼女とかはね、もうだいぶいないから」
「そうなんですか? えっと、それはどうして……」
「大変なの。俺の彼女になっちゃうと」
「大変?」
「うん。色々。思ったのと違ったって言われるのも疲れるし」

 口に出した先輩の声音は少し乾いていた。
 なんとなく陰ったような雰囲気を感じて、俺はその顔をじっと見つめる。
 俺と目が合った先輩はそれ以上続けずに、にこっと笑った。

「みずきもそろそろテストじゃん。頑張って」
「あ、はい。先輩は試験中の朝もいつもと同じで大丈夫なんですか?」

 話を逸らされたので、俺は戸惑いつつも合わせることにした。
 先輩の彼女の話は気になるけど、本人が言いたくないことを突っ込んで聞くのもな、と思って。

「これで十分早いからいいよ」
「俺喋ってて邪魔じゃないですか? よければ勉強してください」
「みずきと話してる方が落ち着くからいい」
「え、ほんとですか……」
「俺が実は全然勉強できなくてすごいバカだったら、引く?」
「引きませんけど」

 神は平等なんだなって、頷くだけだ。でも、急にどうしたんだろう。
 試験勉強のしすぎで心労が溜まってるのかな、と首を傾げると、先輩は俺を見つめて目を細めて微笑んだ。

「家にみずきがいたらな……」
「え?」
「すごい癒やされそうだから。抱えてテレビとか見たい」
「先輩、俺に弟の幻想見てません?」
「うん。実はこの前から妄想止まんなくて」
「……疲れてるんですよ。今度おすすめのアニマル動画送ります」
「みずきに似てる犬いる?」
「いませんけど、パンダの赤ちゃんはいます」

 俺のコメントを聞いた先輩は小さく噴き出して、次に話し始めたときはもういつも通りの先輩に戻っていた。