「じゃ、みずき、また明日な」
「うん。ジャージありがとう。また明日」
気づいたら、前田が降りる駅についていた。
車内の表示を見上げたら、先輩が降りる駅はもう通り過ぎている。俺達の前には戻って来なかったから、多分別の扉から下車したんだろう。
車内で一人になって、日が落ちるのが早くなった薄灰色の冬の空を眺めながら改めて反芻する。
いま、俺の方が嫉妬してたよな。前田に先輩を取られたくないって。
しかも、先輩との友情に割り込まれるかもっていう嫉妬じゃなかった。小学生のとき、友達数人が俺抜きで遊んでたって聞いたときに感じた気持ちとは違う。
前田と先輩が仲良くなる想像で、俺が真っ先に思い浮かべたのは、先輩が前田にくっついているところだった。
今日の朝俺にしたみたいに、前田の肩に頭を乗せて、先輩が暖を取ってる姿。
それを思い浮かべて、嫌だと思った。
すごく嫌だった。それは、俺にだけしてほしいのに。
「そっか」
俺は多分、春川先輩のことが好きなんだろう。
だから先輩が嫉妬したんじゃないか、なんて自分に都合のいい解釈までしようとしたんだ。
自覚したら、頭の上まで一気に熱くなった。
えっ、俺ってやっぱり先輩のこと好きだったの? っていう今更な気づきで。
捉えられていなかった気持ちを言語化したら、胸の奥から込み上げるものがあった。先輩の近くにいてあんなにドキドキしてたのは、先輩がイケメンだからじゃなくて、俺が先輩を好きだったからだ……!?
稲妻が頭に直撃したみたい。突然理解して、目の前がぱっと開けたような感覚があった。
俺は春川先輩が好きだ。
その気持ちがしっくり自分の中に馴染む。
俺は先輩が好きだったんだ。
「そうかぁ……」
俺って面食いだったんだ……という明後日の感想がまず頭に浮かんだ。
だって先輩だぞ? 高嶺の花というか、蓬莱の玉の枝というか、すごいモテる人なんだから。
これからどうしよう。
とりあえず、まずはこの気持ちがバレてはいけない。
好きだと知られたら、絶対困らせる。そういうのは求めてないからって幻滅されるだろう。
そしたらもう朝一緒に電車で話せないし、それは嫌だから、これからも仲のいい後輩という立場を死守したい。今まで通り、先輩の傍にいたいんだから。
そう決意して、俺はポケットの中にあるひじきのキーホルダーを握った。
◇
家に帰ってから、先輩からメッセージが来た。
『もう家ついた?』
という内容で、テンションがいつも通りに見えたのでひとまずほっとする。
俺は普段の通りを心がけて、内心でドキドキしながら返事を打つ。
『今帰りました 先輩も家ですか?』
『うん 風邪引く前にちゃんと着替えなよ』
『わかりました カーディガン着てきます』
前田のジャージをまだ着たままだったことを思い出し、先輩のアドバイス通り部屋着に着替えて家用のカーディガンを羽織った。
『さっきの前田が、先輩と漫画の話したいって言ってました』
今まで先輩とどうやってやり取りしてたっけ。
急に普段の自分の話し方がわからなくなる。俺の言うことって、好き漏れしてなかったよな。
当たり障りない話、と前田のことに触れたけど、先輩からの返事は『ふうん』だけだった。
なにか繋げなきゃと思って、俺は前田について補足する。
『話しやすい奴だし、結構漫画とか読んでるらしいです』
それに対する先輩の返事は、少し遅かった。
『前田君とよく帰ってんの?』
『最近は結構一緒に帰ること多いです』
『朝は? 一緒に行かなくていいの?』
シュポン、とトーク画面に送られてきたメッセージを見て、「えっ」とびっくりした。
慌てて返事を打つ。
『前田は朝弱いから、時間ギリなんです 俺はラッシュ避けて早めに行きたいから』
ほんとは前に先輩が言ってくれたみたいに、先輩といる方が楽しいから、って答えたい。
でもそれを言ったら好きがバレるかもしれない。
『あの、先輩が今まで通りでよかったら ですけど』
自信のない気持ちが湧いて、続けてそう送った。
先輩からはまた少し時間があいて返事が来る。
『ならいいんだけど なんで前田君はみずきって呼ぶの? みずきは前田って言ってるのに』
『中学のとき、俺と同じ名字の担任がいたんです 誰かが名前で呼び始めて、それが定着したって感じで』
『そっか』
リアクションが薄い。ように感じる。
文字だけだから表情や感情が見えない。考えすぎかもと思いながら、先輩の反応がいちいち気になってしまって、落ち着かなくなった。
おかしいな。
先輩は結構淡々とした相づちを送ってくることが多いし、そんなの慣れてるはずなのに。
好きだと気づいたら、先輩が俺のことをどう思っているのかが気になってしまう。
「うん。ジャージありがとう。また明日」
気づいたら、前田が降りる駅についていた。
車内の表示を見上げたら、先輩が降りる駅はもう通り過ぎている。俺達の前には戻って来なかったから、多分別の扉から下車したんだろう。
車内で一人になって、日が落ちるのが早くなった薄灰色の冬の空を眺めながら改めて反芻する。
いま、俺の方が嫉妬してたよな。前田に先輩を取られたくないって。
しかも、先輩との友情に割り込まれるかもっていう嫉妬じゃなかった。小学生のとき、友達数人が俺抜きで遊んでたって聞いたときに感じた気持ちとは違う。
前田と先輩が仲良くなる想像で、俺が真っ先に思い浮かべたのは、先輩が前田にくっついているところだった。
今日の朝俺にしたみたいに、前田の肩に頭を乗せて、先輩が暖を取ってる姿。
それを思い浮かべて、嫌だと思った。
すごく嫌だった。それは、俺にだけしてほしいのに。
「そっか」
俺は多分、春川先輩のことが好きなんだろう。
だから先輩が嫉妬したんじゃないか、なんて自分に都合のいい解釈までしようとしたんだ。
自覚したら、頭の上まで一気に熱くなった。
えっ、俺ってやっぱり先輩のこと好きだったの? っていう今更な気づきで。
捉えられていなかった気持ちを言語化したら、胸の奥から込み上げるものがあった。先輩の近くにいてあんなにドキドキしてたのは、先輩がイケメンだからじゃなくて、俺が先輩を好きだったからだ……!?
稲妻が頭に直撃したみたい。突然理解して、目の前がぱっと開けたような感覚があった。
俺は春川先輩が好きだ。
その気持ちがしっくり自分の中に馴染む。
俺は先輩が好きだったんだ。
「そうかぁ……」
俺って面食いだったんだ……という明後日の感想がまず頭に浮かんだ。
だって先輩だぞ? 高嶺の花というか、蓬莱の玉の枝というか、すごいモテる人なんだから。
これからどうしよう。
とりあえず、まずはこの気持ちがバレてはいけない。
好きだと知られたら、絶対困らせる。そういうのは求めてないからって幻滅されるだろう。
そしたらもう朝一緒に電車で話せないし、それは嫌だから、これからも仲のいい後輩という立場を死守したい。今まで通り、先輩の傍にいたいんだから。
そう決意して、俺はポケットの中にあるひじきのキーホルダーを握った。
◇
家に帰ってから、先輩からメッセージが来た。
『もう家ついた?』
という内容で、テンションがいつも通りに見えたのでひとまずほっとする。
俺は普段の通りを心がけて、内心でドキドキしながら返事を打つ。
『今帰りました 先輩も家ですか?』
『うん 風邪引く前にちゃんと着替えなよ』
『わかりました カーディガン着てきます』
前田のジャージをまだ着たままだったことを思い出し、先輩のアドバイス通り部屋着に着替えて家用のカーディガンを羽織った。
『さっきの前田が、先輩と漫画の話したいって言ってました』
今まで先輩とどうやってやり取りしてたっけ。
急に普段の自分の話し方がわからなくなる。俺の言うことって、好き漏れしてなかったよな。
当たり障りない話、と前田のことに触れたけど、先輩からの返事は『ふうん』だけだった。
なにか繋げなきゃと思って、俺は前田について補足する。
『話しやすい奴だし、結構漫画とか読んでるらしいです』
それに対する先輩の返事は、少し遅かった。
『前田君とよく帰ってんの?』
『最近は結構一緒に帰ること多いです』
『朝は? 一緒に行かなくていいの?』
シュポン、とトーク画面に送られてきたメッセージを見て、「えっ」とびっくりした。
慌てて返事を打つ。
『前田は朝弱いから、時間ギリなんです 俺はラッシュ避けて早めに行きたいから』
ほんとは前に先輩が言ってくれたみたいに、先輩といる方が楽しいから、って答えたい。
でもそれを言ったら好きがバレるかもしれない。
『あの、先輩が今まで通りでよかったら ですけど』
自信のない気持ちが湧いて、続けてそう送った。
先輩からはまた少し時間があいて返事が来る。
『ならいいんだけど なんで前田君はみずきって呼ぶの? みずきは前田って言ってるのに』
『中学のとき、俺と同じ名字の担任がいたんです 誰かが名前で呼び始めて、それが定着したって感じで』
『そっか』
リアクションが薄い。ように感じる。
文字だけだから表情や感情が見えない。考えすぎかもと思いながら、先輩の反応がいちいち気になってしまって、落ち着かなくなった。
おかしいな。
先輩は結構淡々とした相づちを送ってくることが多いし、そんなの慣れてるはずなのに。
好きだと気づいたら、先輩が俺のことをどう思っているのかが気になってしまう。
