同じ電車の男子高校生が気になる

 俺がぽかんとしたら、先輩はまだ俺の着ているジャージを見ながら言う。

「みずきが寒いなら貸すよってだけ。俺いま寒くないし」

 そんなことないよな。先輩は寒がりだから、カーディガン脱いだら絶対寒いじゃん。
 パチパチ瞬きしていると、先輩は自分でも変なことを言っていると思ったのか気まずそうに視線を電車の床に落とした。

「や、ごめん、友達と帰ってるとこ邪魔して余計なこと言った。じゃ、また明日」
「え? あ、は……はい」

 先輩は軽く手を振って離れていき、人の間を縫って奥の方に行ってしまった。

 急によそよそしい。なんで?

「あの先輩、すげーイケメンだな」

 前田が俺の横で感心して呟いている。

「モデルみたいだったじゃん。俺話すの緊張しちゃったよ」
「あれで緊張してたの? 俺先輩と普通に話せるようになるの結構時間かかったんだけど」

 前田に答えながら、先輩の背中を見えなくなるまで目で追う。
 せっかく会えたのに、全然話せなかったな。前田がいて先輩も遠慮したのかも。
 でも、なんでカーディガン貸すなんて言ってくれたんだろう。
 ただのネタだったのか? 先輩貸してくださいよ~。ほんとに貸すわけねーだろバカ、みたいな。
 もしそうだったら俺が上手くツッコミできなかったせいで、先輩を気まずくさせたかもしれない。

 それとも……もしかしたら「俺の着ればいい」っていう言葉通りの意味だったりして。

 いやいやそれだと、まるで前田のジャージなんか着るなって言ってるみたいじゃん。ちょっと突拍子ない。
 もしそうだったら嬉しいな、なんて思ってる自分もいるけど。

「……嬉しいってなに」
「なに? どした?」
「なんでもない。独り言」

 前田に誤魔化しながら混乱した。先輩が嫉妬してくれたら嬉しいなって思った? いま?
 それってどうなんだ?

「でも意外だなー。みずきがああいうタイプの先輩と仲良くなるの。パッと見クールそうっていうか、ちょっと怖そうな感じなのに」
「そんなことないよ。春川先輩、普通にノリいいし、ラノベとか漫画も読んだりするし。それきっかけで話すようになったから」
「へー。そうなんだ。なら俺も話せそう。じゃあ今度会ったらビビらずに話しかけよかな。何の漫画読んでるのか興味ある」

 先輩に関心を持った様子の前田を見て、もやっとした。いや、むかっとした、という方が正しいかもしれない。
 それに自分で驚いて、返事の歯切れが悪くなった。
 前田はいい奴だけど、前田が先輩と仲良くなると思ったら、何故かイラッとした。

 きっと前田は、コミュ力が高いからあっという間に先輩と仲良くなれる。
 そしたら先輩は、俺よりも前田といる方が楽しいと感じるようになるかも。
 前田も呼んで朝三人で乗ろうって言われたら、朝の二人の時間がなくなる。

 そんなの嫌だ。とはっきり思った。
 俺にだけ見せてくれてた特別な顔が、もう特別じゃなくなるなんて。