同じ電車の男子高校生が気になる

 春川先輩が俺に気づく。今日は友達はいなくて、先輩一人だ。

「みずき、帰り?」

 ふわっと笑った先輩が俺の近くまで来る。

「え? みずきの知り合い?」

 前田が驚いて、そこで先輩が前田に視線を向けた。

「あ、友達と一緒だった。ごめん」
「先輩と帰りの電車被るの初めてですね」
「うん」

 前田が誰? という顔で俺と先輩の顔を交互に見ているので、俺が簡単に紹介した。

「えっと、朝よく一緒の電車に乗ってる、春川先輩」
「中学のときの先輩……? こんなカッコいい人いたっけ?」
「ううん。高校で電車に乗るようになって知り合った」
「え? まじ? そんなことあるんだ。すごいね」
「先輩、こっちは同じクラスの前田です」
「ああ、前田くん」

 先輩は前田を上から下まで見て、納得したように頷く。

「あれ? 俺のこと知ってるふう……」
「あ、えっと」

 前田のことを相談した、なんて言いづらいな。
 と思ったら先輩が俺よりも先に答えてくれた。

「みずきと一緒に電車乗ってるとこ見たことあったから。みずきから名前聞いてた」
「えーほんとですか? 同じ車両に乗ってました? 全然覚えてなくてすみません、いまめっちゃ覚えました」
「よろしく」
「しゃす!」

 前田はさすがのコミュ力で、人見知りすることもなく普通に先輩と話している。
 俺が最初に先輩と話したときのテンパり具合を思い出すな。
 こんなイケメンが突然目の前に現れて動じないなんて、前田、お前ただ者じゃない。

 俺が感心していると、先輩が「みずき」と話しかけてきた。

「なんでジャージ? 胸に前田って名前あるけど」

 言われて自分の格好を思い出し、前田と顔を見合わせる。

「今日事故でシャツとカーディガン濡れちゃって。さすがに寒かったんで、前田にジャージ借りたんです」
「シャツとカーディガンを失ったみずきが哀れだったんで貸しました」
「……ふうん」

 相づちを打った先輩の声がいくぶん低い気がして、俺はあれ? と思った。
 ジャージを着ている俺の上半身をじろじろ見てくる先輩は、いつもより顔が硬い。

「中にTシャツ着てるの?」
「え、はい。寒いのでブレザーも着てます。前田のジャージ大きいから着てても見えないから変じゃないかと思って」

 ジャージは首の下までファスナーで閉めたし、マフラーも巻いているから下にブレザーを着ててもわからない。裾もはみ出てないはずなんだけど。

「変なのはわかってるんで。寒いから脱げないんです」
「俺のカーディガン貸そうか?」
「え?」

 先輩の美的感覚によるとダサいのかもしれないと思って寒さをアピールしたら、先輩が予想外のことを言う。
 貸そうか……?
 カーディガンって、先輩がいま自分のブレザーの下に着てるやつ?