同じ電車の男子高校生が気になる

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 先輩の家に行って話した翌日、俺は放課後前田に話しかけた。
 この二日、教室の中で前田は変わらないように見える。西野達と喧嘩した様子もないし、休み時間も同じグループで一緒にいるから俺はほっとしていた。
 声をかけたら一瞬気まずそうな顔をした前田を一昨日の駐輪場の裏まで誘って、そこで謝った。

「前田、この前はほんとごめん」

 そう言うと、前田は俺を見つめて目を丸くした。
 まだ怒っているかもしれない。でも、この前は動揺してしまって、話を受け止めるだけで精一杯だったから。

「勝手に喋って本当に悪かったと思ってる。でも、西野達にネタになるなんて思ってなかったんだ。それだけ言っておきたくて」

 ちょっと緊張しつつも、話ができた。
 前田のリアクションを見るのが不安で地面に視線を落として、背中に背負ったリュックのベルトを握る。
 前田からすぐに返事がなかったから、俺は自然に早口になった。

「できれば前田とは気まずくなりたくなくて、余計なことしてごめんっていうか、ほんとそれだけ」

 これ以上しつこく話しても不快にさせるかも。
 俺は顔を上げて、深刻になりすぎないような笑顔を作った。

「じゃ、またなんかあったら言って。またな」

 くるっと背を向けて歩き出そうとしたとき、「みずき」と呼び止められる。
 振り向いたら、前田がすまなそうな顔で俺を見ていた。

「俺の方がごめん」

 と、真面目な声で謝られて瞬きする。
 前田はまだ気まずそうな顔で、でも俺を見る顔は全然嫌そうじゃない。むしろ俺の様子をうかがうような表情だった。

「この前、みずきに当たるようなこと言った。みずきはあいつらに聞かれたから答えただけで、別になにも悪くなかったのに」
「いや、俺もうっかり言っちゃって」
「付き合ってたの事実だし。あいつらに知られたのがやだったっていうイラつきを、みずきにぶつけたのは俺が間違ってたから」
「いやいや、前田は言いたくなかったのに俺が言っちゃったんだし……」
「いや、俺が理不尽にキレてやな思いさせたから、ごめん」
「いやいや俺も」
「俺だって」

 俺も俺もと言い合って、顔を見合わせて同時に噴き出した。
 もじもじしているお互いがおかしくて、俺が笑ったら前田もほっとした顔になる。

「ほんとごめん。みずきと気まずくなったらどうしよって思ってたから、話しかけてくれて安心したわ。ありがとう」

 それを聞いて俺も肩の力が抜けた。悩んで落ち込まなくても、先輩の言った通りだった。本当にすぐ元に戻ったな。へこんでいた二日間のモヤモヤが嘘みたいだ。
 昨日、先輩に話してよかった。おかげで今日前田に話そうって前向きになれたから。

「西野達、どう? 最近微妙なの?」

 気になっていたことを尋ねると、前田は苦笑いして肩をすくめた。

「うーん。まあ、ちょっとな。別にあいつら悪い奴らじゃないけど、ハメ外しすぎてノリがおかしいときが時々あるっていうか」
「つるむの嫌だったら、俺と黒木のとこ来てもいいよ」
「さんきゅ。でももうちょい様子見るわ。こじれたら後々面倒そうだからさ。そのうちクラス変わるし、適度にやり過ごしてみる」
「わかった。なんかあったら言って」

 適度にやり過ごす、なんて言い切れるのがすごい。多分、前田なら言葉通りつかず離れず上手くやるんだろう。
 それができるコミュ力があるというのが、俺とは違うから感心する。

「ありがと。みずきってやっぱちゃんとしてるっていうか、まじいい奴だな。ごめんなほんと」
「もういいって。それに俺は前田の方がいい奴だと思うけど。元カノのために怒ってたもんな、えらいよ」

 前田は自分がバカにされたって怒ってはいなかった。人間ができてると思う。
 俺がそう言ったら、前田はちょっと目を見開いて、それから笑った。
 春川先輩はたまにふわっと笑うときが最高にイケメンだと思うけど、前田はいつも朗らかだから笑顔は見慣れてるはずなのに、いつもより一段と明るい表情に見える。
 確かに、これはモテるわ。見てたらこっちも笑顔になる顔だもん。

「みずき、もう帰り? 一緒に帰ろ」
「うん」

 頷いて、いつもの陽気なテンションに戻った前田と二人で帰った。

 明日、前田とちゃんと和解しました。って、先輩に報告しよう。
 よかったねって、言ってくれる先輩の顔を想像したら胸が弾む。
 前田は他クラスの情報を色々教えてくれたりして、俺も気分が晴れ晴れとしていたからか、帰りの電車は結構盛り上がった。