◇
それからまた一週間ほど経って、俺は朝の電車で先輩に聞いてみた。
「今まで読んだ中で好きな本?」
「はい。この前食べ物の話してから気になってました。好きっていうか、刺さった本でもいいんですけど」
「んー、悩むね」
先輩がしばらく思案する。
「今思いついたのはこれかな」
少し考えてからスマホの画面を見せてくれた。ブラウザの入力欄にあるタイトルと、検索欄の表紙を見た俺はなるほどと頷いた。
現役の有名作家の代表作といっていい本だ。
一度聞いたら印象に残るタイトルだから、俺も覚えている。
「これ本屋大賞取った本ですね、確か」
「うん。出たのは前だけど、実際読んだのは結構最近かな。本屋大賞の本では天文学者のやつもすきだったから、多分こういう話が好きみたい」
「なるほど。手軽に読めるライト文芸っていうより、じっくり腰を据えてストーリーを追いたいって感じですね」
「ライトノベルも好きだけどね。みずきは?」
「先輩に聞く前に色々考えてたんですけど、これがダントツで一番っていうのがなかなか思いつかなくて。このジャンルならこれっていうのはあるんですけど」
「推しも変わるしね」
「そうですね。この前みたいにミステリーブームが来てると、短期間に何度も読む本もあるので」
とはいいつつ、聞いておいて自分から何も出さないのも公平じゃないと思うので、俺は先輩が乗ってくる前に調べておいたスマホの検索画面を見せることにした。
「俺は児童書から入ってるのでファンタジー好きなんです。思い出があるのはローワンとか」
「ローワン?」
「これです。だいぶ昔の本なので、もう情報もほとんどなくて。従兄からもらった本の中にありました。児童書なので、小学生向けかも。それか、これですね」
もう一つタブを開いて、スマホの画面を見せた。
目を閉じた男女のイラストが描かれた表紙の画像がトップに出てくる。
先輩がぐっと俺の方に身を乗り出してきて、肩同士が当たった。
今日もいい匂いがふわっと香ってくる。先輩のまつげ長いな、と思わず感心してしまうくらい顔が近くて思わず一瞬息を止める。
「小説? 文庫本の」
「っ、あ、はい。もともとはラノベです。主人公の頭の中に携帯電話があって、それを想像でいじってたら、ある日同じように頭の中に電話がある人と繋がっちゃうっていう話で」
「繋がっちゃう?」
「その人とだけ頭の中で話せるんです。そこはちょっと不思議な話で。でも、ラストの切なさと、最後に明かされる伏線が面白いんですよ。長くないので一気に読めます」
「へぇ、面白そう」
「これも昔の本だけど従兄に勧められて古本で集めたんです。中学のとき同じ作者の本にどはまりして、大体持ってます。別の文庫に入ってる猫の話もいいです。まだ持ってるからもしよければ貸します」
「読んでみたい。みずきが大丈夫なら貸して」
「はい。明日持ってきますね」
「ありがと」
先輩が画面から視線を上げる。
頭同士が近いままだったから、先輩も俺の顔が傍にあって驚いたのか、茶色の目を見開いた。
「あ、ごめん。画面気になりすぎてた」
呟いた先輩が俺から離れる。
「だ、大丈夫です」
俺がすぐに頷くと、先輩は普段あまり変わらない表情を崩してちょっと照れたように笑った。
その顔に見ほれてしまって、うっかりスマホを落としそうになって慌てて視線を逸らす。
「そろそろですね」
「ほんとだ。いつもあっという間」
先輩も窓の外を見て頷く。
心なしか、残念そう? 気のせいかな。自分がそう思うから、そんな風に感じたのかも。
雑談していたら、すぐに先輩の高校の駅についてしまう。
「じゃあ、また明日」
「はい。また」
先輩が電車を降りてから、俺は忘れないようにスマホのスケジュールを開いてメモをした。
『先輩に本を持って行く』
たったそれだけの約束だけど、明日先輩に会うために準備できることがあると思ったら、もう明日が楽しみに思える。
英語の小テスト嫌だなと思ってたけど、今日も一日頑張ろ。前向きな気持ちになれて、電車から降りた。
それからまた一週間ほど経って、俺は朝の電車で先輩に聞いてみた。
「今まで読んだ中で好きな本?」
「はい。この前食べ物の話してから気になってました。好きっていうか、刺さった本でもいいんですけど」
「んー、悩むね」
先輩がしばらく思案する。
「今思いついたのはこれかな」
少し考えてからスマホの画面を見せてくれた。ブラウザの入力欄にあるタイトルと、検索欄の表紙を見た俺はなるほどと頷いた。
現役の有名作家の代表作といっていい本だ。
一度聞いたら印象に残るタイトルだから、俺も覚えている。
「これ本屋大賞取った本ですね、確か」
「うん。出たのは前だけど、実際読んだのは結構最近かな。本屋大賞の本では天文学者のやつもすきだったから、多分こういう話が好きみたい」
「なるほど。手軽に読めるライト文芸っていうより、じっくり腰を据えてストーリーを追いたいって感じですね」
「ライトノベルも好きだけどね。みずきは?」
「先輩に聞く前に色々考えてたんですけど、これがダントツで一番っていうのがなかなか思いつかなくて。このジャンルならこれっていうのはあるんですけど」
「推しも変わるしね」
「そうですね。この前みたいにミステリーブームが来てると、短期間に何度も読む本もあるので」
とはいいつつ、聞いておいて自分から何も出さないのも公平じゃないと思うので、俺は先輩が乗ってくる前に調べておいたスマホの検索画面を見せることにした。
「俺は児童書から入ってるのでファンタジー好きなんです。思い出があるのはローワンとか」
「ローワン?」
「これです。だいぶ昔の本なので、もう情報もほとんどなくて。従兄からもらった本の中にありました。児童書なので、小学生向けかも。それか、これですね」
もう一つタブを開いて、スマホの画面を見せた。
目を閉じた男女のイラストが描かれた表紙の画像がトップに出てくる。
先輩がぐっと俺の方に身を乗り出してきて、肩同士が当たった。
今日もいい匂いがふわっと香ってくる。先輩のまつげ長いな、と思わず感心してしまうくらい顔が近くて思わず一瞬息を止める。
「小説? 文庫本の」
「っ、あ、はい。もともとはラノベです。主人公の頭の中に携帯電話があって、それを想像でいじってたら、ある日同じように頭の中に電話がある人と繋がっちゃうっていう話で」
「繋がっちゃう?」
「その人とだけ頭の中で話せるんです。そこはちょっと不思議な話で。でも、ラストの切なさと、最後に明かされる伏線が面白いんですよ。長くないので一気に読めます」
「へぇ、面白そう」
「これも昔の本だけど従兄に勧められて古本で集めたんです。中学のとき同じ作者の本にどはまりして、大体持ってます。別の文庫に入ってる猫の話もいいです。まだ持ってるからもしよければ貸します」
「読んでみたい。みずきが大丈夫なら貸して」
「はい。明日持ってきますね」
「ありがと」
先輩が画面から視線を上げる。
頭同士が近いままだったから、先輩も俺の顔が傍にあって驚いたのか、茶色の目を見開いた。
「あ、ごめん。画面気になりすぎてた」
呟いた先輩が俺から離れる。
「だ、大丈夫です」
俺がすぐに頷くと、先輩は普段あまり変わらない表情を崩してちょっと照れたように笑った。
その顔に見ほれてしまって、うっかりスマホを落としそうになって慌てて視線を逸らす。
「そろそろですね」
「ほんとだ。いつもあっという間」
先輩も窓の外を見て頷く。
心なしか、残念そう? 気のせいかな。自分がそう思うから、そんな風に感じたのかも。
雑談していたら、すぐに先輩の高校の駅についてしまう。
「じゃあ、また明日」
「はい。また」
先輩が電車を降りてから、俺は忘れないようにスマホのスケジュールを開いてメモをした。
『先輩に本を持って行く』
たったそれだけの約束だけど、明日先輩に会うために準備できることがあると思ったら、もう明日が楽しみに思える。
英語の小テスト嫌だなと思ってたけど、今日も一日頑張ろ。前向きな気持ちになれて、電車から降りた。
