休み時間に、親友が突然の報告をしてきた。
「付き合ったの?!」
思わず大きな声が出た。私を嫌っている女子達が、怪訝そうな顔でこちらを見る。
「そうそ。何て言うか・・流れで。」
周りの視線を気にせず、真顔で答える英佳。
私の親友、英佳は不思議な人だった。
私は小さい時から女子に僻まれやすかった。ぶりっ子だからだ。ぶりっ子でいると、男子が続々と寄ってきた。でも、女の友達は離れていった。
私は自分がぶりっ子だということは気づいていたが、口癖や仕草を直そうとはしなかった。
そんな私に英佳は、距離を置こうとせず、他のみんなと同じように分け隔てなく、優しい笑顔を向けてきた。不思議な人だと思った。
そして、男子と“流れ”で付き合うような子だし・・・。
「流れで、なんで、付き合うことになるの??美流、分かんなーい。」
「なんでって・・・そういう空気?だったからかな。うまく説明できないや。でもね、前から気になってはいたの。ちょっと頼りないし、カッコつけるタイプだけど、そこがほっとけないっていうか・・・」
「ふうん?美流にも紹介してね!New彼氏。」
「もちろん!!美流には絶対紹介する!ていうか・・早速お昼休みの時に連れてきてもいい?」
「うんっ!いいよお!楽しみい!英佳、おめでとう。」
「ありがとう!」
私は恋なんてよく分からない。だけど、2人の男女が恋をした結果付き合うことになったら、それは喜ばしいことで、友達に報告したり、報告された側は『おめでとう』って言って祝福するのが当たり前なのは分かっている。
どんな人なんだろう。英佳は優しくてしっかり者だけど、相手の人は『ちょっと頼りないし、カッコつけるタイプ』って話してくれた。そんな人を英佳が本当に好きになるのかなあ?
男子の方から『好きです』と声をかけられることはあった。ぶりっ子であることで、女子からは嫌われたが、男子の中には私のことを好きだと言ってくれる人が何人かいた。でも、何度『好きです』と言われても、男子が見ているのは“ぶりっ子の私”であって、本当の根っこの部分の“私”を見てくれていると感じる人はいなかった。
でもいい。私は今、恋をしたいとは思っていない。
ただたった1人、女の親友でいてくれている英佳に嫌われずに高校生活を何事もなく終えたい。
そう思っていたのに___。
昼休みになると、英佳がなぜかそろそろし始めた。
「どうしたのおー?」
「いや、だって、“親友”に彼氏紹介するんだよ?緊張しちゃう。」
「そんな、美流に紹介するだけなんだから・・・」
“親友”____
英佳も私のこと親友って思ってくれているんだ。
嬉しいな。いつまでも、英佳の親友でいたいな。
「英佳ー!」
爽やかで心地よい音色が私の元に飛び込んできた。
この音色は誰のものなんだろう。
振り向くと、綺麗な黒髪に、ガチガチにワックスでセットされたいかにもイケメンの髪型。目はパッチリしていて男らしいと言うより、かわいい感じの顔だ。
「あ、海斗ー!紹介するよ。こっち私の親友の美流!美流、この人が・・・さっき話していた私の彼氏!」
ハニカミながら、英佳が私達にお互いを紹介してくれる。
「よろしくね!俺のことは気軽にみんな海斗って呼んでるから、自由に呼んで。」
海斗がそう言い、ニカッと笑う。
「海斗、よろしくうー。美流ですう。」
それに対し、私はいつものぶりっ子で返す。
「よしっ!じゃあこの3人でお昼食べちゃおう!」
英佳が張り切って机を3つくっつける。
すると・・・
「俺はお呼びじゃない?」
「あ!貴志!!インフル治ったの?」
貴志は私、美流の幼馴染で腐れ縁の男子。
面倒見の良いタイプで、よく私におせっかいを焼いている。
「おうよ。おかげさまで元気いっぱいだぜ!寝坊して昼から登校になっちまったけど。なんか、英佳に彼氏できたって噂になっているぜ。俺にも紹介してよ。」
「貴志めっちゃ元気じゃーん!もちろん紹介するよ!この人が私の彼氏の、海斗。海斗、あれが貴志。」
「おいおい、“あれ”ってなんだよ、“あれ”って。」
貴志が英佳の雑な紹介にツッコミを入れる。
「えと・・よろしく貴志君。」
海斗が多少戸惑いながら貴志に挨拶する。
「じゃ、今度こそ揃ったから、いっただきまーす!」
英佳が一足先にお弁当を広げ始める。
私達もお弁当を広げ、食べ始める。
その時、ふと鋭い視線を感じていたのは、きっと私だけだ___。
「ちょっと。いい?」
2人組の女子が私達の机に近づき上から見下ろしている。
1学年上の先輩だ。見覚えのある。嫌な予感がじわじわしてくる。
「んもう、やっと食べ始めたのに・・・何ですか?!」
迷惑そうに英佳が言う。
「あんたじゃないよ。うちらが用あんのは・・・こいつだかんね。」
2人組のうちの1人が首をくいっと振り私を示す。
「え・・・用ならここでも。」
海斗がかなり戸惑いながら2人組に話しかける。
「うん。海斗の言う通り。話ならここで話せばいいじゃん!机余っているし?」
英佳は怖気づかず強い口調で2人組に話しかける。
「で?話って何です?」
貴志が2人組をにらみ敵意むき出しで見つめる。
「いや・・・もういい。行こ。」
3人の敵意に怯んだのか、2人組は諦めてそそくさと教室を出て行った。
「あの・・・ありがとお。」
私は何も言い返せなかった。海斗、英佳、貴志が守ってくれた。
「いいんだよ!大丈夫か?」
貴志が私の頭をポンポンする。完全に妹扱いだ。
「しっかし、何の話だったんだ?美流はあの2人と何かあったの?」
海斗が首を傾げ私の顔を覗き込む。
「実は・・・あの2人組のうちの1人・・・名前が分かんないけど、あの人の彼氏が、先週、彼女を振って私に告白してきたの。断ったけど。」
「それで文句言いにきたってわけか。」
呆れたように英佳がため息つく。
「でも、今は俺たちがいたから良かったけど、先輩に睨まれるのはやっぱりまずいな。しばらく1人で行動するのはよした方がいい。」
貴志が真剣な顔で忠告する。
でも自業自得だ。男子にも女子にも媚び売って、口癖も仕草もぶりぶりさせて、誰も嫌な気持ちにならないわけがない。
私はきっと口癖や仕草で、あの先輩の元彼に期待もたせるようなことしたのがいけなかったんだ。私にその気はなくても、事実、期待をもたせて思わせぶりなことをしてしまった。
だから、先輩の怒り恨みをかってしまった。
私ってそういう存在なんだ。
自分らしくいると、他人に勝手に気持ち解釈されて、その結果怒り恨みをかってしまう。
そう考えたら悲しくて虚しい。寂しい。
誰か、誰か、助けて。こんな私を変えて___。
「大丈夫?」
「はっ、へ。」
「大丈夫じゃないって顔している。」
考え事していたら、いつの間にか、海斗が私の顔を真っ正面から見つめていた。
その綺麗な顔立ちに目を逸らせず、思わず見つめ返してしまう。よく見たら本当に顔の1つ1つのパーツが綺麗で見惚れてしまう。
さっきの思考読まれていただろうか。
いや、それはないか。声に出さない限り思考はバレないものだ。
海斗はまるで私の思考を読もうとしているような瞳をしている。でも、嫌じゃない。私の思考を読んだら何をしてくれるのか気になる。あなたは私のために何をしてくれる人なの?
「大丈夫だよ。俺らがずっと美流のそばにいるし!」
貴志が続ける。
「さっきの2人がまた来たら私が一発入れるから!」
続いて英佳が心強く宣言する。
何考えているんだろう。英佳の彼氏に見惚れるなんて。バカみたい。絶対ダメだよ・・・。

