よく、当たり前じゃない日常に感謝しろって周りの大人によく言われた。でも、“当たり前”って、当たり前じゃないことに気づいてから、後悔して感謝するものだと思う。
俺にとっての、当たり前じゃないことが英佳だったように。英佳は今元気で過ごしているんだろうか。どこで何しているんだろうか。そんなことはもう今となっては知る由がない。
だって、英佳は俺たちが傷つけてしまって会えなくなったからだ。俺たちのせいだ。
俺たちが1時の気の迷いで気持ちをふらつかせたり英佳の気持ちに気づいてあげていれば、あんなことにはならなかったのに。
でも、きっと恋愛は、1時の気の迷いでどうにかなってしまうものなのだろう。
恋愛には悪魔が潜んでいると思う。その悪魔の気まぐれで、恋愛をしている奴らは“1時の気の迷い”をする。俺はそう思う。
ただ1つ確かなことは、俺が30手前になった今も、英佳のことが恋しくて恋しくてたまらないってことだ。
「なんっか久々だなあー!このメンツで集まるの。」
貴志が片手でビールを持ち上げながら俺に腕を回してくる。
貴志は昔から面倒見の良い奴で、よく後輩の女子にモテていた。だけど、年下には興味ないらしく、いつも幼馴染の美流に世話を焼いていた。
「たしかに。3ヶ月ぶりくらい?2人とも変わってなさすぎ。」
美流がカシスオレンジを一気飲みしてから言う。
「おまえが変わりすぎなんだよ。あの頃のぶりっ子キャラはどこ行った!」
そして俺が美流を腕で軽く小突く。
「だって、今ぶりっ子じゃ社会人としてやっていけないじゃん。厳しい上司もいるし。」
美流が答える。
「まあな。美流が今もぶりっ子やってたら全力で止めてたな。」
俺が答える。
美流は、学生時代ぶりっ子だった。可愛かったし、ぶりっ子が似合ってしまうお人形さんのような容姿に周りの男子はデレデレ、周りの女子は反対にキツく当たっていた。
美流はそんな女子達の態度をまるで全く気にしていないように振る舞っていた。でも実は気にしているんじゃないかって思わせる、ほんの少しのか弱さがこいつにはあった。
「俺もー!だって女子のあたり強かったじゃん?」
貴志が言う。
「でも・・・英佳は、違った。」
ふいに、つぶやくように美流が発言した。
英佳は、俺・貴志・美流の4人でつるんでいた仲良しグループの一員だった。そして、俺の元カノだ。
英佳はしっかり者でどんな子にも分け隔てなく優しく接している女子で、当時ぶりっ子で周囲から距離を置かれたりしていた美流にも、みんなと同様に親切に接していた。そして、2人は親友だった。
「お前ら特に仲良かったもんな。」
貴志が美流の方に手を置く。
「英佳・・・どこにいるんだろう。」
不安げな顔で美流が言う。
「今となっては知る由もねえよ。今はSNS流行っているから、簡単にアカウントぐらい見つけられると思ったけど、全然ヒットしねえしさ。」
俺が今まで英佳を探していたことが分かるスマホの膨大な履歴を2人に見せる。
「会いたいなあ。」
美流が飲み干したカシスオレンジのグラスを片手に宙を仰ぐ。

