それ以来、羽柴はたびたび一条に話しかけてくるようになった。
放課後ノートと睨めっこしていると、部活を終えた羽柴が教室にやってくる。
最初は鬱陶しかったものの、会話しているうちに、どうやら羽柴は一条が思うほど嫌な奴ではないこともわかってきた。
あと、ふたりのときはそこまで声がでかくない。
「先生、進捗どう?」
「……うるさいな。絶賛難航中だよ」
「ピリピリすんなって。たまには外に出て散歩でもしたらどうだ? 何かひらめくかもよ」
「校庭に異世界へのワープホールが広がってるんなら、今すぐ走っていくけど? ついでにチート能力と美少女ヒロインも」
「へー、それが次の漫画のネタ?」
「んー……」
しっくりこない。というか、同じ題材でもう面白い作品がある。あれを超えられる気がしない。
「トレンドは大事だけど、そこにどうオリジナリティを足していくかなんだよな……」
「難しいこと考えてるねぇ。描きたいように描くんじゃだめなの?」
「言っただろ。本気で賞を狙うつもりだって」
ふだんは内気で人見知りな一条だが、羽柴の前では饒舌になる。たんに内弁慶なのか、あるいは羽柴の持つやわらかい空気がそうさせているのか。
「やっぱりキャラだよな。必要なのは、誰もがかっこいいと思うような主人公だ」
「かっこいい主人公、ねぇ」
「たとえば、IQ200の天才とか、二重人格とかさ。ちょっと古いかな」
そう言うと羽柴は吹き出すように笑った。
「一条、お前わかりやすいなぁ」
「うるせー。ロマンがあるだろうが」
「ま、そうだな。トレンドより、お前がかっこいいと思うものを詰め込む方が、俺はいいと思う」
妙に芯を食った言い方に、ぎくりとする。
漫画に関しては素人のくせに、核心を突かれたような気がした。
「……そういうお前はどうなんだよ」
「え? 俺?」
「お前が思う最高にかっこいい主人公って、どんな奴?」
自分に質問が飛ぶと思っていなかったのか、羽柴はきょとんとして、「うーん」と目を泳がせる。
「あ、あの漫画わかる? サッカーの」
羽柴が口にしたタイトルは、漫画家志望じゃなくても誰もが知ってる名作だった。
「あの主人公、かっこいいよな。ずっと前向きで、絶対に諦めないところとか」
「熱血主人公かぁ。ありがちではあるけど、まぁ悪くないよな」
「憧れるよ。あんな風になれたらって」
「……お前は、結構似てるんじゃないか? 明るいし、どっちかというと熱血キャラだろ」
「いやいや、俺はそんな立派じゃねーよ」
ほんの少しだけ自嘲じみた物言いに、一条はどきりとする。
「うちの部はさ、いいとこ県大会の二回戦止まりだけど。負けても誰も泣かねーんだよな。最初っから、こんなもんだろって空気がある」
「……そうなのか」
「まず、全国行くような奴は、この学校には来ないしな。整った環境で、そもそも土台が違う。同じ競技でも別世界だよ」
「でも、お前なりにガチでやってるんだろ?」
グラウンドから時々聞こえてくる、あの張り上げた声を思い出す。
しかし羽柴は、「まぁ、趣味なりにな」と曖昧に笑った。
放課後ノートと睨めっこしていると、部活を終えた羽柴が教室にやってくる。
最初は鬱陶しかったものの、会話しているうちに、どうやら羽柴は一条が思うほど嫌な奴ではないこともわかってきた。
あと、ふたりのときはそこまで声がでかくない。
「先生、進捗どう?」
「……うるさいな。絶賛難航中だよ」
「ピリピリすんなって。たまには外に出て散歩でもしたらどうだ? 何かひらめくかもよ」
「校庭に異世界へのワープホールが広がってるんなら、今すぐ走っていくけど? ついでにチート能力と美少女ヒロインも」
「へー、それが次の漫画のネタ?」
「んー……」
しっくりこない。というか、同じ題材でもう面白い作品がある。あれを超えられる気がしない。
「トレンドは大事だけど、そこにどうオリジナリティを足していくかなんだよな……」
「難しいこと考えてるねぇ。描きたいように描くんじゃだめなの?」
「言っただろ。本気で賞を狙うつもりだって」
ふだんは内気で人見知りな一条だが、羽柴の前では饒舌になる。たんに内弁慶なのか、あるいは羽柴の持つやわらかい空気がそうさせているのか。
「やっぱりキャラだよな。必要なのは、誰もがかっこいいと思うような主人公だ」
「かっこいい主人公、ねぇ」
「たとえば、IQ200の天才とか、二重人格とかさ。ちょっと古いかな」
そう言うと羽柴は吹き出すように笑った。
「一条、お前わかりやすいなぁ」
「うるせー。ロマンがあるだろうが」
「ま、そうだな。トレンドより、お前がかっこいいと思うものを詰め込む方が、俺はいいと思う」
妙に芯を食った言い方に、ぎくりとする。
漫画に関しては素人のくせに、核心を突かれたような気がした。
「……そういうお前はどうなんだよ」
「え? 俺?」
「お前が思う最高にかっこいい主人公って、どんな奴?」
自分に質問が飛ぶと思っていなかったのか、羽柴はきょとんとして、「うーん」と目を泳がせる。
「あ、あの漫画わかる? サッカーの」
羽柴が口にしたタイトルは、漫画家志望じゃなくても誰もが知ってる名作だった。
「あの主人公、かっこいいよな。ずっと前向きで、絶対に諦めないところとか」
「熱血主人公かぁ。ありがちではあるけど、まぁ悪くないよな」
「憧れるよ。あんな風になれたらって」
「……お前は、結構似てるんじゃないか? 明るいし、どっちかというと熱血キャラだろ」
「いやいや、俺はそんな立派じゃねーよ」
ほんの少しだけ自嘲じみた物言いに、一条はどきりとする。
「うちの部はさ、いいとこ県大会の二回戦止まりだけど。負けても誰も泣かねーんだよな。最初っから、こんなもんだろって空気がある」
「……そうなのか」
「まず、全国行くような奴は、この学校には来ないしな。整った環境で、そもそも土台が違う。同じ競技でも別世界だよ」
「でも、お前なりにガチでやってるんだろ?」
グラウンドから時々聞こえてくる、あの張り上げた声を思い出す。
しかし羽柴は、「まぁ、趣味なりにな」と曖昧に笑った。
