先生の次回作にご期待ください


 好きか嫌いかで言うなら、羽柴和也のことは嫌いだった。
 別に大した理由があるわけではない。そもそも殆ど会話も交わしたことがない。
 たとえば、教室の真ん中で大声で笑っているのが耳障りだとか、やけに垢抜けて見える茶髪がチャラついてて目障りだとか、サッカー部のエースだからって女子にチヤホヤされているのが鼻につくとか。
 要するにやっかみであった。陰キャは基本的に、陽キャがうっすら憎いのだ。
 
 一条夕貴は教室の隅っこに生息しているタイプの人間だ。物心ついた頃から、気づけば集団からあぶれてひとりで絵を描いていた。
 小学校に上がる頃には、自分が集団行動の苦手な人種だと理解していた。いつもひとりで漫画を読んだりアニメを観たりして過ごしていて、そんな自分が漫画家を志すのは当然の成り行きのように思えた。
 
 今までに二度、賞に応募した。結果はいずれも惨敗。
 前回の受賞者は十四歳で、天才中学生漫画家の看板を引っ提げて今年から連載を始めた。一条も読んでいるが、毎週歯ぎしりするほど面白い。賞にかすりもしないまま今年の春で高校二年生になった一条は、現在三度目の挑戦に向けて構想を練っている最中である。
 しかし今日も机の上のノートは真っ白で、新人賞確実の画期的なアイデアは生まれそうもない。
 手癖で描かれた少年のイラストに、思いつくままに設定をつけてみる。
 
『クールで無口』
『学校では一匹狼で周囲からは暗いと思われている』
『しかし実はとんでもない才能を持っていて……』
 
 ここでペンがピタリと止まる。とんでもない才能って、なんだろう。
 天才ハッカー?
 世界レベルのピアニスト。
 やっぱりファンタジーに振り切るか?
 一行書いては二重線で消す。まったく話が進まないまま、今日も昼休みが終わろうとしている。一条は頭を掻きむしった。
 
「はい、お前の負けー! 自販機までダッシュな!」
「おいマジかよ! 昼休み終わるって!」
 
 ふいに、教室の真ん中から大声が聞こえてきた。羽柴たちのグループだ。
 思わず視線を向けると、嫌でも目につく体格のいい男。
 毎日机にへばりついて絵ばかり描いている一条からすれば、自分より一回りはありそうなその背丈も、気に入らないポイントのひとつだった。
 
 ガタ、と机が揺れる。
 
「あ、わり」
 
 一条の机の横を通ろうとした羽柴が腰をぶつけたようだ。その視線が、一条の手元のノートに移る。
 
「なぁ、それって……」
「おい! 早く行ってこいよー! 昼休み終わるぞ!」
「やべっ」
 
 羽柴は慌てたように教室を駆け出していく。
 今、ノートを見られた? 最悪だ。何も言われなければいいが。
 一条は小さく息を吐くと、ノートを閉じて机にしまった。