数日後、私たちは『龍華の里』へ向かうため、蒸気機関車に乗っていた。
暁と東雲が窓にへばりつき、車窓を流れる景色にかじりついている。
ご機嫌に2つのもふもふ尻尾が仲良く揃って揺れていた。
「おおー!! 木が勝手に後ろに行きます!!」
「牛が速く動いたぞ!!」
「すごいです!」
「あいつ本当はすげーいいやつかも!」
東雲のいう「あいつ」とは光城真澄様だ。
私達が『龍華の里』へ行くと伝えると、皇家専用の特別な蒸気機関車『御料車』を貸してくださった。
なぜ、彼はこんな貴重な機関車を貸したかというと、彼と美鈴様も同伴したいという。
「真澄様、美鈴様。ご協力ありがとうございます」
絢爛豪華な車両な中央に鎮座するソファーに腰掛けるお二方に頭を下げる。
「わざわざ大袈裟だな。『龍華の里』へ入るには結界があるからね。見つけるためにも僕の力が必要なだけ」
光城様改め真澄様は、顔をしかめると、ひらりと手をふり、ゆっくり足を組み替えた。
お礼をいったら、面倒くさそうな反応をされてしまった。どうしたら。
「真澄ってば、螢ちゃんに名前で呼ばれて、照れているのよ」
美鈴様はうふと笑っているが、絶対にその理由ではないです。
ご自分から「真澄様」呼びをしろと皇太子殿下はおっしゃられました。
たぶん、私が宵様の隣に座っているのが気に入らないだけです。
だってあの方、先程からチラチラ視線をこちらに寄越している。
私は肩にかかる重みの原因である宵様に目をやる。
私の肩にこめかみを預け、目を閉じた宵様はそれはそれはかっこいい。右巻きのつむじさえも。
「あ、えっと宵様。お疲れなら寝室で休まれたら……いかかでしょうか」
里でのことを話した日以来、近すぎる距離にどぎまぎしながら提案すると。
「お前もともにくるか?」
ふっと愉快そうに笑う宵様は心臓が止まりそうなくらい色気がダタ漏れだ。
「いえ! 起きています! 双子の保護者として!」
「なんだ……残念だ……」
「なにが残念なのかわかりません……」
ばくばくと暴れ狂う鼓動に戸惑い、たまらず膝に視線を逃がす。
「嫁と一緒に寝られないからだな」
どうしてこうも生真面目な顔で、わざわざ言わなくてもいい破壊力抜群の台詞を口にするんですか。
思わず短い悲鳴を上げて顔を覆うと、宵様は楽しそうにくつくつと笑い出した。
「ちょっと、君たち。僕たちが同じ空間にいることを完全に忘れていないかい!?」
豪華なソファーの向かい側から、真澄様が額を押さえて盛大なため息を吐く。
さすがの皇太子殿下も、孤高で美しい宵様の自由奔放さには頭が痛くなったらしい。
「忘れるはずないだろう。見たくないなら帰れ」
「帰れるわけないだろう。里は強力な結界で亜空間に隠されているんだ。僕の誘導がなければ――」
「そんなもの、人の声が聞こえる方向に、とりあえず全力でぶっ壊せば入れるだろ」
物騒極まりない方法を平然と提案する宵様に、真澄様がついに顔を青ざめさせて言葉を失った。
宵様なら本当にいとも簡単にやってのけそうだ。張り詰めていた緊張が解け、思わずくすりと笑ってしまう。
「私も里から自力で抜け出せましたし、そのときは助力いたしますね」
私の言葉に、宵様はあははと愉快そうに笑って、私の頭を乱暴に、けれど愛おしそうに撫でた。
「さすが俺の嫁」
屈託の無いその笑みを見て、心臓が大きく脈打ち、胸のどこかが甘く疼いてしまった。
今はまだ、その気持ちに名前をつけないでおこう。
これから向かう龍華の里には、原作の本来のヒロインである『瑞花』が待っている。
彼女の父親を抜け殻にしたのは私だ。
瑞花が私を許すはずがない。
それでも、私は逃げない。絶対に宵様の呪いを解く。
──だけどもし、宵様の呪いが解けたのなら。
その時は、宵様の隣にしがみつく子供じみた独占欲も、この甘い疼きもすべて言葉にしよう。
流れる車窓の景色を眺めながら、私は隣に向かって、そっと微笑んだ。
「ありがとうございます。――旦那様」

