任務を遂行させていただきます。

 「じゃあ愛実、行ってくるね」
「うん!いってらっしゃい!がんばってね!」
「お母さん!行ってきます!」
「はーい!いってらっしゃい!気をつけてね!」
私の1日は旦那と子供を送り出すところから始まる。結婚してから早や10年。旦那の建人はあの頃から役職も上がり今では係長に、そして娘は今年から小学生になっていた。
 いつも通り掃除、洗濯を済ませて買い物へと出かける。今日は近所のスーパーでセールが行われる日だ。なんとしてでもセール品をゲットしなければ。昔はこんなありふれた日常をこの私が送れるなんて思ってもいなかった。この生活を与えてくれた旦那と娘には感謝しなければならない。
 スーパーでの買い物を済ませ家に帰るとポストに一枚のチラシが投函されていた。
「あなたの正義感や責任感を生かして一緒に仕事をしませんか?」
不思議なチラシだ。でもグッドタイミングかもしれない。娘も小学生に通うようになり私の生活にも余裕ができた。私が働けば旦那だってきっと楽になるはず。
 その日の夜、愛実は建人に相談することにした。
「ねぇ建人。私もまた働き始めようかなって思ってるんだけどどうかな?」
「え?働くの?お金足りない?」
「ううん。そういうことじゃなくて。私が働けばもっと余裕ができるかなって」
「あぁなるほど。いいんじゃない?やってみなよ」
さすが建人だ。物分かりが良くて本当によくできた旦那だと思う。
「ほんと?!じゃあ明日面接に行ってみるね!」
愛実は何も考えず、勢いだけを頼りにチラシに書いてあった電話番号に連絡し、面接の予約をした。この時の判断がのちに人生の中で1番最悪な出来事に繋がるとは知らずに…。
 翌日。愛実はいつもより少し早く起き、身支度を整えていた。
「あれ、今日は早起きだね」
「うんそうなの。昨日何も見ずに面接行きますって連絡したんだけど、場所がうちの家の近くのあの山みたいで」
「あの山って?不落山のこと?」
「そうそう」
「大丈夫?なんか奇妙な噂聞くけど」
「え?」
 不落山には2つの噂があった。
 1つ目は山に霧が現れると大きな鳥居が現れ、その下には狐の面をした巫女が1人現れるということ。
 2つ目はその巫女に名前を知られてしまうと後日、不可解な死を遂げるということ。
「いや、大丈夫なら行っておいで」
「うん!とりあえず頑張ってくるよ!」 
愛実はそう言い家を出て山へと向かった。車を走らせ山の麓で降り、そこからは徒歩で進んで行った。地図の通りに山道を進み、歩くこと30分。目の前に大きな洞窟が現れた。洞窟は先が見えないほど長く続いており、中は真っ暗だ。車に積んであった懐中電灯の明かりを頼りに奥へ奥へと進んでいく。どれぐらい時間が経っただろうか。もはやそれすらわからないスマートフォンも圏外になってしまい使えない。絶望すら感じていたその時、ようやく目の前に白い光が見え始めた。
「あ、やっとゴールじゃん」
愛実は今まで溜まっていた疲れが嘘のように走り出す。しかし、光が近づいていくにつれてまた足取りが重くなっていく。
「え、これって…」
洞窟の外に広がっていたのは太陽の光ではなく霧だった。
「そういえば朝、建人が霧がああだこうだって説明してくれてたような。ちゃんと聞いておけばよかった。しかも何あれ?鳥居?」
霧の中にうっすらと赤い柱のようなものが見える。その柱はとても高く、1番上すら見えないほどだった。
「ようこそ」
「え?!」
鳥居に見惚れて目の前に人がいることに気づかなかった。
「面接に来られた方ですね?」
「あ、はい」
狐の面をした巫女が淡々と話を進める。
「では、こちらへどうぞ。面会室にて長がお待ちです」
言われた通りに部屋へ入ると狐の面をした大柄な男が待っていた。
「水野 愛実さんですね?お待ちしておりました。どうぞおかけください」
「あ、ありがとうございます」
なんだか陰気臭い場所だ。そもそもこんなところに神社?ってだけで怪しいのにさらに全員が狐の面をしている。正直恐怖でしかない。
「あ、あの…チラシを見てここに来たんですけど」
「えぇ。存じております。そのチラシはあなたにしか配っていませんもの」
「は?」
よくあるコンビニやスーパーのバイト募集の感じポストに入ってたこのチラシが?愛実はますます恐怖を感じた。
「そのチラシは昔、弱者だった経験のある人にしか配っていないものです」
「…弱者?」
「えぇ。あなたは高校時代、主に2人の学生からいじめを受けていましたね?そしてクラスメイトは見て見ぬ振りをして誰も助けてくれなかった」
「どうしてそれを…」
「しかし、唯一1人だけあなたを助けてくれる人がいた。それが今の旦那様ですね?」
「え、えぇ」
なんで今そんなことを言われなきゃいけないんだろう。幸せな生活の中で忘れられていたはずの嫌な記憶が頭の中に蘇ってきた。

  時は遡り、愛実18歳(高校3年生)。
「ね!今度の試験も3人で競うでしょ?」
「相変わらず好きだねぇ〜朱莉は」
「えぇー?それは由衣も愛実もでしょ?」
愛実、朱莉、由衣の3人は高校2年生の時にクラスが一緒になり仲良くなった。3人は仲が良いことに加え、成績はいつも学年のトップ3を占めていたことから秀才トリオと呼び名までついていた。
「ね!愛実は大学どこ行くの?」
「うーんっとね関東大学かな」
「え!一緒じゃん!がんばろ!」
「じゃあ由衣は?」
「うちは