五月。ごわすの小指を埋める。

 話せば分かる。
 誰の言葉だったか?
 芋怪異?
 その言葉を信じて、ここまでのお話を母にしたが、流石に無理があった。
 私の舌の根も髪の毛も乾かぬ間に、警察を呼ばれた。
 まあなー、しゃーなし。
 ごわすに命じて、恐慌突破も考えたけれど、そんなことをしても、追っ手をまぬがれる事はできないだろうし。なんだかんだ、日本の警察は優秀だ。自分の家出で証明されたし。
 はー。
 あれ?
 涙が出てきた。
 警察が来たら、おそらく、もう、ごわすと会うことはできないだろう。
「なに、泣いてんの、泣きたいのは、こっちの方よ、」以下がみがみ、いがみいがみ。
 母の声が、とても、遠くに聞こえた。
 湿った土の中にいる気分。
 このまま、時が、止まってしまえば良いのに。
 そして。
 近づくパトカーのサイレンの音。
 その音が、私の家の、前で消える。
 母が、扉を開けに席を立つ。
 私は、小さい声で、ごわすー、と呟いた。
「心配ないでごわす。また、お会いできるでごわす。約束でごわす」
 ごわすが、差し出した、小指は、私の親指ほどの太さがあった。
 私はごわすの小指に、私の小指を絡める。
「指切りで、ごわす」
 私が、手を、軽く振ると、ごわすの小指が、ぽっきりと折れた。
「ご、ごわす」
 ごわすは、もう、何も言わない。
 私はその小指をソファの下に隠した。
 ごわすはおとなしく、警察に連行されていった。

 一日だけ、学校を休んで。その次の日に、また、私は登校した。

「rりり、璃愛良ちゃん、ジャジャ、っ。すー。これ、ありがとう」
「あっ、あかねちゃんっ、ごめんっ。本当にっ、ごめんねー。本当に。心配でっ、うっ、全然っ、目え覚さないから。わたしっ、どうしようって、」
 その涙は、卑怯だなって、思ったけれど、そのことで、私の心が痛むことはなかった。
「本当にっ、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫」
 クラスメイトが注目をしている。
 けれど、その視線を一身に受けても、本当に大丈夫だった。
 あの事件は、なかったことのように、一時間、二時間、三時間、四時間。理科、数学、音楽、社会。と時間は回っていく。
 その日の給食のデザートは、スイートポテトだった。

 放課後。私は園芸部に行った。
 部、と言っても、部員はおらず、実質顧問の教頭先生の家庭菜園となっている。
 あの、さつまいも畑も教頭先生のものだっだ。
「あら、珍しい。いらっしゃい」
「あの、私、二年四組の、霧島茜と言います。さっ、さつまいもをつくりたいんですけどっ」



 五月。ごわすの小指を埋める。
 苗として育て、根と芽と葉が、すっかり生えた、ごわすの小指を畑に植えかえる。
 植物は良い言葉をかけ続けると、よく育つというから。あれから私は、毎日。
 小指に語りかける。
「またね、大好き」