炎だ。冷たい海に落ちたはずの体が、なぜか温かい。
パチパチと爆ぜる音に目を開くと、隣に座った燦が久遠の顔を覗き込んでいた。
「……え? えっ?」
「久遠、目を覚ましたか」
「僕、まだ生きてますか?」
体を起こそうとしたが、止められた。体の上には燦の白い袍が掛けられている。
(波に流されて、砂浜に打ち上げられたのかな?)
十六夜の祖父ともみ合いになり、ぬかるんだ地面に足を滑らせ、海に落ちたところまでは覚えている。凍えるような水の冷たさと泳ぎにくい婚礼衣装のせいで、絶対に助からない――そう思ったのだが……生きている。この光景が夢でなければ。
しかも、ずぶ濡れになったはずが不思議と寒くない。足元のほうを見ると、そこには火が焚かれていた。先ほどのパチパチという音は、焚火の音だったのか。
「もしかして炎武の才……こういう使い方もあるのですね。助けてくださってありがとうございます」
「ああ。才のおかげで凍え死にせずに済んだ。崖がちょうど風よけになってくれたのも、運が良かったな」
燦の視線を追って辺りを見回すと、確かにこの砂浜は左右に崖が張り出していて、風が通らない。見上げると、崖の上ではまだ風があるようで、木々が左右に激しく揺れていた。
「燦様は、僕をどうやって見つけてくださったのですか?」
「俺もお前を追って海に飛び込んだ」
「……えっ!? あの高さから?」
燦が頷く。一国の王ともあろう御方が、久遠を助けるために海に飛び込むなんて。
どうして、と理解できずにいたが、燦は余裕の笑みで応えた。
王と后が同時に海に落ちたことになる。五主家の皆は今頃、花緒が落ちたのだと勘違いして、大騒ぎをしているのではないだろうか。
燦も花緒もいなくなれば、綺羅の政情は再びがらっと変わる。
想像もしたくないことだが、次は燦の弟である霖の後見を巡って諍いが起こるのだろう。
パチパチと爆ぜる音に目を開くと、隣に座った燦が久遠の顔を覗き込んでいた。
「……え? えっ?」
「久遠、目を覚ましたか」
「僕、まだ生きてますか?」
体を起こそうとしたが、止められた。体の上には燦の白い袍が掛けられている。
(波に流されて、砂浜に打ち上げられたのかな?)
十六夜の祖父ともみ合いになり、ぬかるんだ地面に足を滑らせ、海に落ちたところまでは覚えている。凍えるような水の冷たさと泳ぎにくい婚礼衣装のせいで、絶対に助からない――そう思ったのだが……生きている。この光景が夢でなければ。
しかも、ずぶ濡れになったはずが不思議と寒くない。足元のほうを見ると、そこには火が焚かれていた。先ほどのパチパチという音は、焚火の音だったのか。
「もしかして炎武の才……こういう使い方もあるのですね。助けてくださってありがとうございます」
「ああ。才のおかげで凍え死にせずに済んだ。崖がちょうど風よけになってくれたのも、運が良かったな」
燦の視線を追って辺りを見回すと、確かにこの砂浜は左右に崖が張り出していて、風が通らない。見上げると、崖の上ではまだ風があるようで、木々が左右に激しく揺れていた。
「燦様は、僕をどうやって見つけてくださったのですか?」
「俺もお前を追って海に飛び込んだ」
「……えっ!? あの高さから?」
燦が頷く。一国の王ともあろう御方が、久遠を助けるために海に飛び込むなんて。
どうして、と理解できずにいたが、燦は余裕の笑みで応えた。
王と后が同時に海に落ちたことになる。五主家の皆は今頃、花緒が落ちたのだと勘違いして、大騒ぎをしているのではないだろうか。
燦も花緒もいなくなれば、綺羅の政情は再びがらっと変わる。
想像もしたくないことだが、次は燦の弟である霖の後見を巡って諍いが起こるのだろう。

