火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 今日の婚礼で、久遠が花緒と入れ替わる(・・・・・)ことを。

 婚礼は大嵐の中で行われる。しかも、側には断崖絶壁がある。
 嵐に巻き込まれ、崖から足を滑らせた――と言えば、花緒を害したとしても、十六夜の仕業であると気付かれにくい。

 嵐の混乱に乗じて花緒から月主の宝物を奪い返し、命を奪う。
 そして、久遠が実は女であることを明かし、燦の后とする。
 それが、祖父の狙いだ。

 十六夜家が主家に復帰し、燦の外戚として力を振るう前途(みらい)を思い描いているのだろう。が、そんな自分勝手な野望のために、道具として使われる気はない。

(もう僕は、蔵に閉じ込められることを恐れていた、弱い久遠じゃない)

 久遠は、鏡に映った自分の顔を見つめる。
 十六夜の謀略を必ず止める。五主家の皆の目の前で、十六夜の悪事を暴く。
 そのために久遠は花嫁衣裳を着て花緒に成りすまし、婚礼の儀に参加する。傘の代わりに頭から領巾を被れば、顔を隠して皆の目を欺ける。

(お祖父様か父上が襲ってきたら、まずは人の目のあるところに逃げるんだ)

 十六夜が花嫁を襲っているところを、誰かに目撃させよう。身に危険が及びそうになったら、ぎりぎりのところで自分の顔を見せればいい。
 久遠は祖父や父にとって、大切な切り札。
 花緒だと思った女が久遠であると分かれば、命までは奪わないだろう。そこで捕まえてもらえばいい。
 不確実なところの多い策だが、過去の因縁を断ち切るには、これしかない。

 久遠は燦と共に、碧李家の屋敷を出た。
 領巾を頭から被り、隣に立つ燦の顔を見上げる。

「心配するな。何かあれば、俺が必ず守る」
「そうならないように願います」

 断崖絶壁に続く道には、激しい風が吹いている。
 燦が歩き始める。久遠も一度大きく息を吸い、その後に続いた。