火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 雷と雨の音にかき消されないよう、久遠は燦の耳元に顔を寄せた。

「十年前、十六夜は綺羅ノ王の座を狙いました。日紫喜の宝物殿から火輪剣を奪おうとして、燦様のお母上を殺めた……というのは、燦様が夢で見た通りです。謀略に失敗した十六夜は久靄家に伝わる霧中の才を使い、綺羅ノ国から十六夜に関わる記憶を消し去りました。それが天の怒りを買い、十六夜は主家の座を追われたのです」

 十六夜が元は主家だったと聞き、燦は納得したように頷いた。

 今思えば、燦の寝室にある屏風にも手がかりがあった。六曲一双の屏風のうち、一番左側の扇だけ何も描かれていなかった。元々そこには、月主・十六夜家とその宝物が描かれていたはずだ。
 久靄の霧中の才によって、その絵も消えてしまったのだが。

「……俺の記憶と一致している。あの日、一葉という名の姫もその場にいた。霧中の才を使った香宵姫の娘だ。その子を人質に取られ、香宵姫はやむなく才を使ったんだろう」

 燦の口から「一葉」という言葉が出て、久遠は一瞬狼狽えた。燦は幼い日の一葉のことを知っていたのだ。

 自分があの時の一葉。今は男装をしているだけ――燦にそう伝えたくて堪らない。
 が、伝えてどうなるというのか。久遠は言葉を呑み込み、話を変える。

「祖父と父の狙いは、主家の座を取り戻すことです。そのために月主の宝物を探しています。だから花緒様を狙っていたのです」
「宝物? 花緒の……胸に抱く()、のことか?」
「はい。花緒様から宝物を取り戻せと祖父に言われました。だから、花緒様の身に危険が及ぶのではと心配で」
「十六夜が花緒を狙うとしたら……婚礼の場だな」
「それ以外に、祖父たちが花緒様に近付ける機会はありません。そこで、僕に一つ案があるのですが」
「案?」

 久遠は真っすぐに燦を見て、大きく頷いた。


   ◇


「似合うじゃないか、久遠姫」
「あ、ありがとうございます……でも、()というのはお止めください」

 気恥ずかしさのあまり、久遠は燦から目を逸らした。

 碧李領への同行を禁じていたにもかかわらず、十六夜家の祖父と父は姿を現した。久遠を味方に取り込み利用しようとしたが失敗し、今頃焦っているはずだ。婚礼の場で、直接花緒に手を出すこともあり得る。

 だから、久遠のほうから燦に申し出たのだ。