「燦様!」
婚礼の準備をする燦の部屋に飛び込むと、その場にいた女官たちが悲鳴を上げた。
「久遠、どうした? 泥だらけだぞ」
「お話があります! どうか、お人払いを」
久遠がそう言い終わる前に、女官たちはもうそそくさと部屋を出る用意を始めている。泥にまみれた久遠の姿に恐れをなしたのだろう。
燦は久遠に頷いて、女官たちを追い出して戸を閉めた。
ここまで来れば、祖父と父も追って来られまい。ようやく一息ついて、久遠は床の上にくずおれた。
「……十六夜の祖父と父に会いました」
「なんだと? 碧李領への同行を禁じ、この屋敷も見張らせていたというのに」
「恐らく、烽火のご当主様が手引きなさったのかと」
借りた手巾で顔の汚れを拭き、久遠は燦の前に座って姿勢を正した。
この場に花緒の姿はない。花緒の婚礼準備は、別の部屋で行われているようだ。
「燦様。先ほど僕は、偶然祖父の夢見をしました。それで過去のことが詳しく分かったのです。燦様のお母様のことも」
「……というと?」
「燦様のお母様を殺めたのは、主家の誰かだと仰いましたね。それは……十六夜家だったのです。僕の祖父と父です!」
燦の顔色が変わる。
言葉を失い、顎をガタガタと震わせる。
燦が十年かけて探した仇は、十六夜だった。こんな巡りあわせがあるだろうか。
そうとは知らず、燦は仇の孫である久遠を従者として側に置いた。久遠の心の傷を受け止め、祖父と父から守ると約束までしてくれたというのに。
(燦様に、どう顔向けしたらいいのか分からない)
今の久遠にできるのは、真実を洗いざらい燦に伝えることだけだ。
その結果、自分が燦から突き放されることになったとしても。
「本当に申し訳ありません。すべての罪は、十六夜が……」
「……久遠、十年前の話だ。お前に罪はない。詳しく聞かせてくれるか?」
絞り出すような声で燦が言う。
婚礼の準備をする燦の部屋に飛び込むと、その場にいた女官たちが悲鳴を上げた。
「久遠、どうした? 泥だらけだぞ」
「お話があります! どうか、お人払いを」
久遠がそう言い終わる前に、女官たちはもうそそくさと部屋を出る用意を始めている。泥にまみれた久遠の姿に恐れをなしたのだろう。
燦は久遠に頷いて、女官たちを追い出して戸を閉めた。
ここまで来れば、祖父と父も追って来られまい。ようやく一息ついて、久遠は床の上にくずおれた。
「……十六夜の祖父と父に会いました」
「なんだと? 碧李領への同行を禁じ、この屋敷も見張らせていたというのに」
「恐らく、烽火のご当主様が手引きなさったのかと」
借りた手巾で顔の汚れを拭き、久遠は燦の前に座って姿勢を正した。
この場に花緒の姿はない。花緒の婚礼準備は、別の部屋で行われているようだ。
「燦様。先ほど僕は、偶然祖父の夢見をしました。それで過去のことが詳しく分かったのです。燦様のお母様のことも」
「……というと?」
「燦様のお母様を殺めたのは、主家の誰かだと仰いましたね。それは……十六夜家だったのです。僕の祖父と父です!」
燦の顔色が変わる。
言葉を失い、顎をガタガタと震わせる。
燦が十年かけて探した仇は、十六夜だった。こんな巡りあわせがあるだろうか。
そうとは知らず、燦は仇の孫である久遠を従者として側に置いた。久遠の心の傷を受け止め、祖父と父から守ると約束までしてくれたというのに。
(燦様に、どう顔向けしたらいいのか分からない)
今の久遠にできるのは、真実を洗いざらい燦に伝えることだけだ。
その結果、自分が燦から突き放されることになったとしても。
「本当に申し訳ありません。すべての罪は、十六夜が……」
「……久遠、十年前の話だ。お前に罪はない。詳しく聞かせてくれるか?」
絞り出すような声で燦が言う。

