泣き叫びながら手を伸ばした少女は、力尽きたのか急に意識を失った。
まるで眠ったように手足をだらりと垂らして、祖父の腕に身を預ける。
『……香宵め。死ぬ間際にようやく、霧中の才を使ったか』
『父上、これで皆の記憶が消えたのでしょうか。我々が蘇芳姫を殺めたことも、火輪剣を奪おうとしたことも……』
『香宵が下手な失敗をしていなければ、だな。一葉が目覚めたら、香宵のことを覚えているかどうか確かめろ。それまでは蔵にでも閉じ込めておけばいい』
蔵、と言ったか。
久遠は耳を疑った。
『父上、それではもう私は白藤を妻に迎えてもよろしいのでしょうか』
『白藤? ああ、あの地主の娘か。香宵は死んだのだ。勝手にせよ』
祖父は少女を父に預け、丘の斜面を登っていく。その後を父が追った。
(嘘だ……まさか、信じられない)
父に抱かれた少女の顔を見る。
この子は今から、十六夜家の蔵に閉じ込められることになる。暗闇の中で恐怖と空腹に耐え、自分が誰なのかも分からなくなり、そして男装して生きていくことを強いられる。
(十六夜一葉……僕の本当の名前は、一葉だったんだ)
そして、一葉の母である香宵は今、あの燃える宝物殿の下敷きになっている。
今ここで叫ぶことができたなら、久遠は体中の力を絞って泣き叫んだだろう。しかしここは夢の中だ。涙を流すこともできない。久遠はただ、眠る少女の顔を見つめた。
意識が引き戻される。
目を開けると、黒雲に覆われた天が見えた。
仰向けに倒れた久遠の体に、容赦なく雨粒が降り注ぐ。
「十六夜は、主家だったのですね」
かすれた声でそう言うと、倒れた久遠の顔を祖父が覗き込んだ。
「そうだ。十六夜家は昔、六主家の一門だった。だから夢見の才が使えるのだ」
「それで納得しました。互いに優劣があるはずの主家の才。なぜ碧李家の才を打ち消す家がなかったのか。十六夜が主家であったのなら説明がつきます」
「その通り。我々の夢見の才は、碧李の水煙の才に勝る。十六夜が抜けたことで、かえって主家同士の均衡が崩れたのだ」
「お祖父様が間違っていたのです。天は主家同士の争いを望みません。他家を陥れて主家の座を取り戻そうとする十六夜が、どうして天に赦されましょうか」

