『一葉、大人しくしろ!』
『いやだ! 母さまのところにもどるのっ!』
祖父の腕の中で、「一葉」と呼ばれた一人の少女が暴れている。
祖父の隣には、父の姿もある。雪が降っているというのに二人とも汗だくで、衣は黒い煤のようなものであちこち汚れていた。
『香宵は、まだ霧中の才を使っていないのか!』
『一葉の命と引き換えに、綺羅ノ国中の者から記憶を消すと約束しています。もう少し待ちましょう』
祖父と父の背後、遠くには火の手が見える。轟々と激しく燃える建物には、見覚えがあった。
(あれが、日紫喜家の宝物殿……!)
……ということは、今久遠に見えているこの光景は、祖父の夢の中だ。
祖父に手首を掴まれ、平手打ちをされた。意識を失い、祖父の頭の中の記憶が、夢見の才によって久遠の頭の中になだれこんできたのだろう。
祖父の腕に抱かれた少女は、激しく泣きじゃくっている。
少女が体を反らしたところに祖父が体勢を崩し、そのまま二人は積もった雪の上に倒れ込んだ。
『ああっ、待て! 一葉!』
少女はすぐに立ち上がり、元来た方向に走り出す。
(あっちには火の手が上がっている。危ない!)
しかし、夢の中で久遠の声は少女に届かない。丘の斜面を転げ落ちるように走った少女は、燃える宝物殿のすぐ側まで辿り着いた。
『母……さま?』
呆然と立つ少女の、視線の先を見る。
今にも燃え落ちそうな宝物殿のすぐ側に、女が一人倒れている。
その隣にはもう一人、別の女の影。
そして、倒れた女に縋って泣く少年の姿。
(あれは、もしかして子どもの頃の燦様?)
『一葉!』
祖父が少女に追いついた。
抵抗虚しく、少女は再び祖父に抱きかかえられる。
その時――地響きのような音がして、ついに宝物殿が崩れ落ちた。燃えた柱や壁の残骸が、雪崩のように折り重なって、その場にいた三人を襲う。
『母さまー!!』
『いやだ! 母さまのところにもどるのっ!』
祖父の腕の中で、「一葉」と呼ばれた一人の少女が暴れている。
祖父の隣には、父の姿もある。雪が降っているというのに二人とも汗だくで、衣は黒い煤のようなものであちこち汚れていた。
『香宵は、まだ霧中の才を使っていないのか!』
『一葉の命と引き換えに、綺羅ノ国中の者から記憶を消すと約束しています。もう少し待ちましょう』
祖父と父の背後、遠くには火の手が見える。轟々と激しく燃える建物には、見覚えがあった。
(あれが、日紫喜家の宝物殿……!)
……ということは、今久遠に見えているこの光景は、祖父の夢の中だ。
祖父に手首を掴まれ、平手打ちをされた。意識を失い、祖父の頭の中の記憶が、夢見の才によって久遠の頭の中になだれこんできたのだろう。
祖父の腕に抱かれた少女は、激しく泣きじゃくっている。
少女が体を反らしたところに祖父が体勢を崩し、そのまま二人は積もった雪の上に倒れ込んだ。
『ああっ、待て! 一葉!』
少女はすぐに立ち上がり、元来た方向に走り出す。
(あっちには火の手が上がっている。危ない!)
しかし、夢の中で久遠の声は少女に届かない。丘の斜面を転げ落ちるように走った少女は、燃える宝物殿のすぐ側まで辿り着いた。
『母……さま?』
呆然と立つ少女の、視線の先を見る。
今にも燃え落ちそうな宝物殿のすぐ側に、女が一人倒れている。
その隣にはもう一人、別の女の影。
そして、倒れた女に縋って泣く少年の姿。
(あれは、もしかして子どもの頃の燦様?)
『一葉!』
祖父が少女に追いついた。
抵抗虚しく、少女は再び祖父に抱きかかえられる。
その時――地響きのような音がして、ついに宝物殿が崩れ落ちた。燃えた柱や壁の残骸が、雪崩のように折り重なって、その場にいた三人を襲う。
『母さまー!!』

