火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 祖父が声を荒らげる。

「お前には分からぬ! 十六夜がいかなる扱いを受けてきたのか。本来ならば十六夜は、主家の中でも筆頭の強さを持っていたはず。碧李家ごときに頭を下げる必要はなかったのだ!」
「な、なにを仰って……」
「碧李は我が十六夜には勝てぬ。十六夜は主家の位を取り戻す。そうすれば、あの偉そうな碧李輝比佐も後悔するだろう。久遠よ、それまで我が家に力を貸せ」
「どういうことです? 十六夜は主家ではありません! 確かに僕たちに夢見の才はありますが、それは綺羅ノ国の主家だからというわけではなく――」

 そうだ、五主家は天から与えられた才を持つ。
 主家同士の力の均衡が取れるよう、各主家の才はお互いに優劣関係がある。

(……では、なぜ十六夜にも才がある?)

 久遠の額を、一筋の汗が流れる。
 ふと、数日前の燦との会話が頭を過った。

 燦の夢と久遠の過去が繋がっているのだと燦に告げた時、燦は言った。
 十年前、日紫喜家の宝物殿が焼けた時、燦の母親のほかにもう一人、命を落としたものがいたのだと。

 その者の名は、香宵。
 久靄家の姫である、ということしか分からない。

 香宵は、燦の母を殺めた相手に、幼い娘を人質に取られた。娘を助ける条件に、綺羅ノ国中の人々からその日の記憶を消す、霧中の才を使ったという。

 あの日、燦を除く綺羅ノ国の人すべてが、記憶を失った。
 燦の母が生きていたこと、火輪剣を奪おうと企んだ者がいたこと――その場で起こったことはすべて、綺羅ノ国から消え去ったのだ。

『――久遠に蔵に閉じ込められる前の記憶がないというのは、恐らく、その霧中の才の影響だろう。だが、久遠自身に宝物殿が焼ける時の記憶があるということは……』
『僕も、燃える宝物殿の前にいたということでしょうか』
『そういうことになる。宝物殿が燃え落ちた時、衛士や女官たちが火消しのために集まってきたから……その中に久遠もいたんだろうか』
『だとすると、僕は小さい頃に燦様と会っていたのかもしれませんね』

 燦とそんな会話をした時には、気が付いていなかった。
 記憶を失ったせいで、疑うべきことを疑えていなかった。

(十六夜家も、元は主家だったのか! だから夢見の才を使えるんだ!)

 ということは、陽主・日紫喜家から火輪剣を奪おうとしたのは、もしかして――。