火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「もちろんだ。花緒は俺にとっても大事な幼馴染み。花緒とお腹の子を危ない目に遭わせるわけにはいかない。もしも俺の母を殺めたのが花緒の生家である和暮だったとしても、花緒には罪がない」

 燦の返答に、久遠は胸を撫でおろした。
 一人で抱えていた秘密を、燦と共有できた。これで十六夜も花緒に手を出しづらくなるだろう。

(それに……)

 十六夜家の一員である久遠のことも、燦は突き放さず受け入れてくれた。それが心から嬉しい。

「燦様。もう一つお伝えすることがあります。燦様の夢のことで」

 確かめたい。燦の夢と、久遠の記憶が重なっている理由を。

「燦様の夢で見た、燃える屋敷と叫ぶ女。実は、その光景を僕も夢に見ました。燦様の夢見をしている時ではありません。僕が一人でいる時に、です」

 はっきりと見た。あれは確かに、久遠自身の過去の記憶だ。

「……どういう意味だ? お前も、あの場にいたということか?」
「はい、恐らく。不思議なのですが、花緒様の威風の才を浴びた時に突然記憶が蘇ったんです。僕も昔、燃える屋敷を見たのだということを」

 久遠の過去の記憶は、何者かによって意図的に消されているのかもしれない。
 そもそも久遠には、蔵に閉じ込められるより以前の記憶がない。
 燦の母親が命を落としたのは、十年ほど前。久遠が蔵に閉じ込められていたのも、十年前だ。

(これは、偶然だろうか?)

 いや、そうは思えない。十年前にきっと何かがあったはずだ。
 燦は一度目を伏せ、一段声を低くして呟いた。

「久遠。主家が持つ才は、互いに優劣が決まっている……というのは知っているか?」
「はい、もちろんです。どれか一つの才が力を持ち過ぎないよう、他主家の才で力を打ち消すことができるとかなんとか」
「お前の記憶が戻ったのは、花緒の威風の才を受けた時。和暮の威風の才によって打ち消される力は――」
「……まさか、雲主・久靄家の才? つまり僕は」
「久靄家の誰かが、霧中の才を使ってお前の記憶を消したのでは」
「でも、僕は久靄家とは縁がありません」
「いや、もしかしたら……」

 燦の頭の中で、何か繋がったようだ。

「宝物殿が焼けたあの夜、久靄家の姫が俺の目の前で霧中の才を使ったんだ。確か名前を、香宵と言ったはずだ」
「香宵姫……それは一体誰でしょう」