火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 燦の胸の上で、久遠は顔を上げた。

(僕が、身を乗り出し過ぎたから……!)

 天禄殿の戸から空を見上げるのに気を取られていた。外に続く階段は数段。あまり高くない場所から落ちたので、燦が大怪我を負うことはないだろうが、心配だ。
 しかし燦の様子を確かめようにも、久遠の背中には燦の腕が回されていて、体が動かせない。

 本当は女である自分と、大人の男である燦の体は、大きさがまったく違う。
 筋肉質でがっちりとした腕や胸を、どうしても意識してしまう。燦に触れていると、自分はやはり男ではない、女なのだ――そう、痛いほど実感する。

 わけもなく、涙が出た。

 燦に泣き顔を見られたくはない。しかし、抱きかかえられた状態では体を起こせない。どうしたらいいのか、久遠の心を急激に不安と混乱が襲った。

「くっ……」

 燦の胸元の衣を握り締めて、負の感情を抑える。すると燦が、久遠が暴れぬようにとますます強く抱き締めた。

「おい、どうした? 落ち着け。怪我はないか?」
「放してください! 僕は女じゃない。男だ! だから、僕をどこにも閉じ込めないで!」
「何を言っている? お前をどこかに閉じ込めるやつなどいない。落ち着いて息をしろ」
「嘘だ! 僕が男じゃないと、また蔵に閉じ込めるくせに!」

 燦の胸を拳でどんどんと叩く。一体自分はどうしてしまったのだろう。
 感情を上手く支配できない。

 燦は何も言わず、泣きじゃくる久遠の背中に手を回し、そっと撫でた。

 そうしてどれくらいの時が経っただろうか。小雪がひらひらと舞い、久遠の頬に落ちた。ひんやりとした雪が体温で溶けるのを感じ、久遠は正気を取り戻した。
 燦の腕の中、黙って肩で息をする。

「落ち着いたか? 久遠」
「……申し訳……ありません。王に対して……」
「構わん。手を放すが、起きられるか?」
「はい」

 燦の温もりが、離れていく。