「俺は、花緒を娶る気はない」
「では、なぜ合議の場で何も仰らなかったのですか?」
「あの場で何か言っても、時の無駄だ。聞き流せばいい」
「でも……祭祀の時に后が不在だったから、あれだけの大嵐が起こったのですよ。何もしないわけには……」
「はっ、馬鹿馬鹿しい」
燦は声を上げて笑う。
そして手巾を広げ、その上に濡れた久遠の手を置いて、ぎゅっと握りしめた。
「久遠。嵐が起こったのは偶然で、天の怒りなどではない」
「なぜ、そんなことが分かるのですか」
「分かるさ。試しに、お前が花緒の衣を着て、もう一度祭祀をしてみればいい。嵐なんて起こりはしない」
「僕が? 燦様の后ではないどころか……男ですが?」
「言っただろう? 天は誰が祭祀に臨もうと構わない。花緒が祭祀に出たことと、大嵐は関わりのないこと。さあ、久遠。花緒に頼んで祭祀の衣を借りてこい」
燦は久遠の肩をぽんと叩くと、さっさと立ち上がって寝台の上に戻る。
(本当に、試す気なのか? 僕が、花緒様の衣を着て……?)
◇
誰もいない天禄殿前の広場には、夜の秋風が吹きすさぶ。
風は冷たいはずなのに、頬が妙に火照って熱い。
(燦様の前で、女の格好をすることになるなんて……)
久遠は人目を忍び、誰にも見られないように小走りで天禄殿の階段に向かった。
先ほど燦は、「祭祀の日の嵐は偶然で、天の怒りではない」と言った。久遠がそれを疑ったので、燦はムキになり、もう一度祭祀を試してみようと言い始めた。
后の代理として、今度は花緒ではなく、久遠が天に玉花を捧げる。
もしもあの嵐が本当に天の怒りだったのなら、久遠が祭壇に玉花を供えた瞬間、再び大嵐が起こるはずだ。
久遠は強く反対したが、燦は聞き入れなかった。
それどころか、久遠が渋っているうちに、自ら部屋を出て、花緒の衣一式を持ち帰ってきた。そこでようやく久遠は観念した。
燦を止めても無駄だ。
こうと決めたら、誰が何を言っても聞かない相手である。
先日花緒に着付けてもらった通り、見様見真似で祭祀の衣装を身に着けた。正しく着られているか分からず、鏡の前で頭を抱えているところに、花緒が手伝いに来てくれた。
衣を身に付けたら、今度は化粧だ。
ずっと男として生きてきた久遠にとって、化粧をするのはもちろん初めてのこと。
目を閉じて、されるがままに身を任せる。
「では、なぜ合議の場で何も仰らなかったのですか?」
「あの場で何か言っても、時の無駄だ。聞き流せばいい」
「でも……祭祀の時に后が不在だったから、あれだけの大嵐が起こったのですよ。何もしないわけには……」
「はっ、馬鹿馬鹿しい」
燦は声を上げて笑う。
そして手巾を広げ、その上に濡れた久遠の手を置いて、ぎゅっと握りしめた。
「久遠。嵐が起こったのは偶然で、天の怒りなどではない」
「なぜ、そんなことが分かるのですか」
「分かるさ。試しに、お前が花緒の衣を着て、もう一度祭祀をしてみればいい。嵐なんて起こりはしない」
「僕が? 燦様の后ではないどころか……男ですが?」
「言っただろう? 天は誰が祭祀に臨もうと構わない。花緒が祭祀に出たことと、大嵐は関わりのないこと。さあ、久遠。花緒に頼んで祭祀の衣を借りてこい」
燦は久遠の肩をぽんと叩くと、さっさと立ち上がって寝台の上に戻る。
(本当に、試す気なのか? 僕が、花緒様の衣を着て……?)
◇
誰もいない天禄殿前の広場には、夜の秋風が吹きすさぶ。
風は冷たいはずなのに、頬が妙に火照って熱い。
(燦様の前で、女の格好をすることになるなんて……)
久遠は人目を忍び、誰にも見られないように小走りで天禄殿の階段に向かった。
先ほど燦は、「祭祀の日の嵐は偶然で、天の怒りではない」と言った。久遠がそれを疑ったので、燦はムキになり、もう一度祭祀を試してみようと言い始めた。
后の代理として、今度は花緒ではなく、久遠が天に玉花を捧げる。
もしもあの嵐が本当に天の怒りだったのなら、久遠が祭壇に玉花を供えた瞬間、再び大嵐が起こるはずだ。
久遠は強く反対したが、燦は聞き入れなかった。
それどころか、久遠が渋っているうちに、自ら部屋を出て、花緒の衣一式を持ち帰ってきた。そこでようやく久遠は観念した。
燦を止めても無駄だ。
こうと決めたら、誰が何を言っても聞かない相手である。
先日花緒に着付けてもらった通り、見様見真似で祭祀の衣装を身に着けた。正しく着られているか分からず、鏡の前で頭を抱えているところに、花緒が手伝いに来てくれた。
衣を身に付けたら、今度は化粧だ。
ずっと男として生きてきた久遠にとって、化粧をするのはもちろん初めてのこと。
目を閉じて、されるがままに身を任せる。

