火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 久遠を都に連れて帰った後、燦は十六夜家が合議に参加することを禁じた。だから、久遠が父の顔を見るのは、あの時――十六夜の里に帰る途中の一本道で父に殴られた久遠が、炎武の才を使う燦に助けられた日――以来だ。それに、隠居した祖父のことは、もう何年も顔を見ていなかった。

 燦からの沙汰を聞いた後、十六夜家は相当焦ったのだろう。
 繋がりのある烽火や和暮、久靄(くもや)を通じ、何度も燦に「十六夜を合議に参加させてほしい」という相談が入った。

 しかし、久遠を守ると言った燦の言葉に嘘はなかった。主家から何度迫られても、絶対に十六夜は合議には入れぬと頑として断ったのだ。

(だから、わざわざ合議の終わりを狙って日紫喜家に来たんだな)

 父だけでは(らち)が明かないと考えたのか、わざわざ隠居した祖父まで連れて来るとは……よほど切羽詰まっていると見える。

(十六夜家の名目を保つためだけに、なぜそこまでするんだろう)

 財を持つ五主家に取り入って、夢見の才を発揮する代わりに対価を得る。そうすれば、十六夜家も安泰であろう。それは分かる。
 だが、十六夜の里は自然豊かな場所で、広い田畑もある。贅沢をしなければ十分生きていけるはずだ。

(ああ、でも今はそんなことよりも、隠れなければ)

 燦のいないところで父に見つかるわけにはいかない。十六夜家に引き戻されてしまう。
 久遠は生垣の陰にしゃがみこんで身を隠した。

「――いっそのこと、久遠の正体を明かしてはどうですか?」

 父が祖父に言った。正体、とはなんのことだろう。

「万葉人よ。久遠の正体を明かせば、久靄の者に気付かれるやもしれん。慎重にせねば」
「もはや久靄も、久遠のことなど覚えておりますまい。あれから十年も経っていますし、久靄の当主は目が見えません。それに、久遠が燦王の后となってしまえば手は出せないでしょう。久遠にも、我が十六夜にも」

 父の言葉に、久遠ははっと顔を上げた。

(僕を、燦様の后にするって……?)