火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「ええ。ですから、前王の御子が男児ならその御子に、そして女児ならば、(りん)殿に譲位なさればよいのではないでしょうか」

 突然、霖の名が上がり、久遠は驚いて顔を上げた。
 霖はまだ幼い。一度、二度顔を合わせただけであるが、燦によく懐いて可愛らしい子だ。

(いや、幼さで言えば、これから花緒様が産む御子のほうが幼いわけだから……)

 久遠だけではなく、合議の場は驚きのあまり静まり返っている。輝比佐は続ける。

「燦王だけを責め立てるのはお門違い。和暮の姫の懐妊を聞いて手のひらを返した、烽火殿の責でもあるのでは?」
「いや、それは……我が烽火家は、燦王が望むなら姫を嫁がせるつもりで……」
「それならそれで、碧李家は反対致しませんよ。ただ、燦王が后をお決めにならないのなら、我ら碧李家は霖殿への譲位を強く申し入れます」

 躊躇(ちゅうちょ)なく言ってのけた輝比佐の振る舞いに、燦は顔色一つ変えない。思い思いに発言する当主たちをよそに、あくびをする始末。
 久遠が燦を軽く睨みつけると、それに気付いた燦はふっと笑った。

「別に、俺は后を迎えないとは言っていない。胸に月を抱いた姫を后にすると何度も伝えたはずだが」
「それでは……やはり、和暮の姫を?」

 当主たちは、一斉に和暮家の当主を振り向いた。
 前王の后である花緒を、燦の后とする。そして燦の次の王は、花緒が産む御子――和暮家が拒む理由は何もない。

 結局その日の合議では、花緒を燦の后とすることに落ち着いた。
 当の燦は、自分の意見も言わず、あくびをするばかりである。


   ◇


(燦様に確かめなければ)

 合議では、花緒が燦の后となることで半ば決まってしまった。
 しかし、燦の気持ちはどうだろう。

 燦の母を殺めた相手は、まだ分かっていない。それが和暮の者でないとも言い切れない。
 だから燦はずっと后を決めずに、のらりくらりと交わしていたのだ。なのに今日は、花緒を后とする案を拒まなかった。

(それ以前に、あくびばかりで話を聞いていなかったし……)

 合議のあとも、燦は一人でさっさと部屋に戻った。朝堂の片付けをしていた久遠は、すっかり置いてけぼりだ。

 久遠が燦の邸に向かって急いでいると、建物の陰から、聞き慣れた声が耳に入った。

(……あれは、父上? と、お祖父(じい)様!)