火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 夜になって燦の部屋に戻ると、久遠がなかなか戻らないことを心配した燦が、庭で待っていた。

 どこにいたのかと説教されたような気がするが、疲れ切った久遠の耳にはほとんど何も入ってこない。結局、そのまま燦の夢見もせず倒れるように眠り――そして翌朝。
 朝堂(ちょうどう)で行われた合議は案の定、大紛糾(だいふんきゅう)となった。

「嵐の原因は、祭祀の場に后がいなかったことです!」

 いつものように大声を出したのは、烽火(のしろ)だ。

触書(ふれがき)を出したおかげで大きな被害を出さずにすみましたが、それでも農閑期(のうかんき)でなかったらどうなっていたか!」

 興奮して立ち上がろうとする烽火を、隣にいた和暮(わぐれ)が袖を引いて制する。
 燦が飄々(ひょうひょう)としている分、関係のない久遠のほうがいたたまれない気持ちになる。燦の従者など引き受けるのではなかったと、合議の時には決まって後悔する。

 それでもまた夜になれば、燦の言うなりになって夢見に(いそ)しんでしまうのだが。

(こうなることは分かっていたはずなのに……燦様はどう収めるんだろう)

 当主たちは、「花緒の子が生まれるのを待っていられない」とか「早急に后を決めるべきだ」などと言って、激論を交わしている。
 それを眺める燦の顔が怖い。恐らく、燦の中では既に結論が決まっているはずだ。だから当主たちのやり取りを鬱陶(うっとう)しく思っているのだろう。

 終わらない議論に、碧李(あおい)輝比佐が見かねて口を開く。

「天が望むのは、五主家が諍いなく綺羅を治めること。今のこの合議の場を見れば、天は再びお怒りになるでしょうな」
「碧李殿! では、どうすればいいとお考えか!」
「燦王の后が決まらぬと言うなら、早急に譲位(じょうい)をお決めになればよろしいかと」
「どういうことだ。和暮の姫のご出産は、まだかなり先であるぞ」