火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「あ、頭が……痛くて」

 割れるような痛みに、久遠は両手で頭を抱える。しばらく耐えていると、突然ふっと霧が晴れたように痛みが引いた。
 そして、その痛みの後に押し寄せたのは、今までなかったはずの記憶。
 一度も思い出せなかったぼんやりとした過去が、なぜか鮮明になっていく。

「ああっ……!!」
「どうしたの? 久遠!」
「僕、僕は……!」

 知らない記憶が、久遠の頭の中になだれこんでくる。



 美しい衣を身に(まと)った女が、雪の中に這いつくばっていた。

 ――このままでは、蘇芳(すおう)を陽主にお返しできない!
 ――卑怯者!
 ――罪はなかったことにはならない!

 鬼気(きき)迫る言葉が、次々と耳に飛び込んでくる。

 目の前にあるのは、炎に包まれ今にも崩れ落ちそうになった建物。
 真っ白な雪に広がる、赤い染み。

(この光景を、僕はどこかで――)




「――久遠、久遠!」

 花緒の悲鳴で、久遠は現実に引き戻される。
 全身の力が抜けて、その場にへなへなと崩れ落ちた。

「花緒様ごめんなさい、私は……いや、僕は……」

 (もや)が、晴れていく。
 まるで、その靄によって自分の過去を隠されていたように感じる。

(燦様と同じ夢だった)

 そうだ、思い出した。
 炎に焼かれる建物、叫ぶ女――久遠が思い出した過去の記憶は、燦の夢の中身と重なる。
 今は、燦の夢見をしているわけではない。あの炎に包まれた建物の記憶は、確かに久遠自身のものだ。

(……僕は、誰なんだ?)