火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 花緒に問われ、改めて自分の心に問うてみる。

(僕は、男装なんかしたくない。僕は女だ)

 それが、子どもの頃から一度も認められなかった久遠の本心だ。
 男装を拒んだら、祖父や父に何をされるか分からない。その恐怖から、これまで自分の気持ちに蓋をしてきた。

 しかし、女の衣に袖を通した自分を見てしまったら、もう認めるしかない。
 男装を止めたい。女として生きたい。

(なぜ、僕は男として育てられたんだ――)

 その時、久遠は突然頭痛に襲われ、その場でよろめいた。
 花緒に肩を支えられ、なんとか体勢を戻す。

「嫌な質問をしてしまったのね。答えたくなければ無理しなくていい。貴方の事情に立ち入るつもりはなかったの。ごめんなさい」
「とんでもありません。なぜ男装をしているのか、僕自身も分からないのです。ただ、幼い頃に祖父と父から厳しく言われました。男装をしなければ、ここ(・・)から出さないと……」
ここ(・・)というのは?」
「……蔵の中です。十六夜の里に、誰も使っていない蔵があって……僕はずっとそこに」

 堪え切れず、久遠の両目から涙がこぼれる。花緒が衣ごと久遠を抱き締めた。

「怖い思いをしたのね。嵐を怖がっていたのも同じ理由かしら」
「一人で蔵にいた時に、嵐が来て……それで……」

 泣きじゃくる久遠の頭を、花緒が優しく撫でた。

 それからどれくらい時が経っただろうか。部屋の外ではようやく嵐がおさまったようで、静寂の中から虫の声が響いてくる。
 久遠は花緒の腕から離れ、無言で頭を下げた。

「久遠、落ち着いた?」
「……花緒様、本当に申し訳ありませんでした」
「いいのよ。ねえ、そろそろ貴方の髪を乾かしてもいいかしら? 風邪を引くと思うの」
「え?」

 確かに、先ほど髪紐を解いてから、濡れたままの髪をそのままにしてあった。
 せっかくの祭祀の衣が、再び濡れてしまっている。

「すっ、すみません! すぐに脱ぎます!」
「いいわ。そのままで」

 花緒が久遠の背中側に回り、長い髪を手櫛でまとめる。そして再び、威風の才を使った。
 久遠の髪が、風にふんわりと浮かぶ。

 その瞬間――。

 久遠を再び、激しい頭痛が襲った。
 目の前が真っ暗になり、頭の中を濃い靄のようなものがぐるぐると回って締め付ける。

「……ううっ……ああ……」
「久遠? 大丈夫?」