びしょ濡れの久遠を見つけた花緒が、誰にも見られぬように縁側から久遠を中へ通した。
「たまたま貴方がいることに気が付いて良かったわ」
「申し訳ありません。花緒様しか頼れる方がいなくて……しかもこんなにずぶ濡れで、お部屋を汚してしまうかも」
「あら、気にしないで。私が風主・和暮家の姫だということを忘れたの? とりあえず衣を脱いでちょうだい」
花緒は手際よく床に敷布を広げる。久遠はその上におずおずと遠慮がちに座った。
「衣を、ここで脱ぐのですか?」
「ええ、そうよ。すべて脱いでね。火鉢を側に置くわ」
「……はい」
久遠は恐る恐る帯に手を掛けた。人前で衣を脱ぐというのは初めてかもしれない。
こんなことを十六夜の父に知られたなら、何をされるか分かったものではない。久遠が女であることは、他人に知られてはならない秘密だからだ。
その秘密を以前、花緒に漏らしてしまったことで、今日こうして助けてもらえているのだが。
久遠は震える手で、濡れた衣を一枚ずつ脱いでいく。裸になった肌の上を、冷たい雨の雫が伝った。恥ずかしさと寒さで、久遠は両腕で胸元を隠して俯いた。
「あら……貴方、本当に女だったのね」
花緒は久遠の肩から新しい小袖をふんわりと掛け、正面に向かい合うように座った。
目を閉じてぶつぶつと何か唱えたかと思うと、花緒の手元から風がふわっと吹き上がる。その風は久遠の全身を渦のように包んだ。
驚いて何も言えずにいる間に、久遠の体はすっかり乾いて、寒さも引いていた。
「えっ……? これは一体……」
「久遠は初めて見るわよね。これが威風の才よ」
――威風の才。燦が使った炎武の才と同じく、天から主家に授かった術だ。
才の名称を知ってはいても、見るのはもちろん初めてである。
「本来は、衣を乾かすために使うような才ではないのよ。私は力が弱いから、これくらいのことしかできないだけで」
「いいえ、花緒様。ありがとうございます。すごい力です!」
「嫌だわ、お世辞は結構よ。さあ、濡れた衣もこちらにちょうだい」
花緒が久遠の覡服を乾かしている間、久遠は火鉢の前で足を抱えて待った。
ふと壁のほうに目をやると、先ほどの祭祀で花緒が身に着けていた衣が掛けてある。この衣も、汚れを落として花緒の威風の才で整えたのだろうか。
「たまたま貴方がいることに気が付いて良かったわ」
「申し訳ありません。花緒様しか頼れる方がいなくて……しかもこんなにずぶ濡れで、お部屋を汚してしまうかも」
「あら、気にしないで。私が風主・和暮家の姫だということを忘れたの? とりあえず衣を脱いでちょうだい」
花緒は手際よく床に敷布を広げる。久遠はその上におずおずと遠慮がちに座った。
「衣を、ここで脱ぐのですか?」
「ええ、そうよ。すべて脱いでね。火鉢を側に置くわ」
「……はい」
久遠は恐る恐る帯に手を掛けた。人前で衣を脱ぐというのは初めてかもしれない。
こんなことを十六夜の父に知られたなら、何をされるか分かったものではない。久遠が女であることは、他人に知られてはならない秘密だからだ。
その秘密を以前、花緒に漏らしてしまったことで、今日こうして助けてもらえているのだが。
久遠は震える手で、濡れた衣を一枚ずつ脱いでいく。裸になった肌の上を、冷たい雨の雫が伝った。恥ずかしさと寒さで、久遠は両腕で胸元を隠して俯いた。
「あら……貴方、本当に女だったのね」
花緒は久遠の肩から新しい小袖をふんわりと掛け、正面に向かい合うように座った。
目を閉じてぶつぶつと何か唱えたかと思うと、花緒の手元から風がふわっと吹き上がる。その風は久遠の全身を渦のように包んだ。
驚いて何も言えずにいる間に、久遠の体はすっかり乾いて、寒さも引いていた。
「えっ……? これは一体……」
「久遠は初めて見るわよね。これが威風の才よ」
――威風の才。燦が使った炎武の才と同じく、天から主家に授かった術だ。
才の名称を知ってはいても、見るのはもちろん初めてである。
「本来は、衣を乾かすために使うような才ではないのよ。私は力が弱いから、これくらいのことしかできないだけで」
「いいえ、花緒様。ありがとうございます。すごい力です!」
「嫌だわ、お世辞は結構よ。さあ、濡れた衣もこちらにちょうだい」
花緒が久遠の覡服を乾かしている間、久遠は火鉢の前で足を抱えて待った。
ふと壁のほうに目をやると、先ほどの祭祀で花緒が身に着けていた衣が掛けてある。この衣も、汚れを落として花緒の威風の才で整えたのだろうか。

