火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 綺羅ノ国では、毎月決まった日に五主家が集まり、祭祀(さいし)が行われる。

 祭祀というのは、綺羅の太平を祈願する儀式だ。日紫喜家の王と后の二人が、玉花(ぎょっか)と呼ばれる花を天に奉納する。

 儀式では、五主家がそれぞれ持つ宝物(ほうもつ)も祭殿に集められる。天から授かった宝物を損なうことなく大切にしていることを、天に示すのである。

 陽主・日紫喜家の宝物は、火輪剣(ひのわのつるぎ)と呼ばれる剣。
 この宝物は五主家の中でも特別な意味を持つ。その昔、天が「この剣持つ者を王とする」と定めたからだ。

 その他四家の宝物は、碧李家の法螺貝(ほらがい)、久靄家の(すずり)、烽火家の木製の(たて)、和暮家の香炉(こうろ)で、祭祀の日に各家の当主が持ち寄って祭壇に飾る。

 王と后、そして五主家の宝物。
 これらをすべて揃え、五主家は祭祀に臨むことになる。
 一つでも何かが欠けていると、天の怒りを買って大嵐が起こるのだという。

 だから碧李輝比佐は大嵐を避けるために、「次の祭祀までには后を決めてほしい」と久遠に伝言したのだろう。しかし燦は輝比佐の助言を聞いても、頑として后を決めなかった。

 后不在のままでは祭祀は行えない。だから今月はやむなく、花緒が代理で后の役割を務めることとなった。

(……とはいえ、合議の場で、ご当主様たちは花緒様に代理を任せることに反対していたけど)

 合議の際の張りつめた空気を思い出し、久遠はぶるっと震えた。

 祭祀の準備を終え、覡服に着替えた久遠は、鏡の前に立つ。

「よし、どこからどう見ても男……だな!」

 高く一つに結い上げた髪を揺らしながら、久遠は鏡の前で一回りして、身だしなみを確かめた。

 祭祀は未の刻から開始だ。