火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「燦には、和暮の父からも度々進言しているのよ。王となったのだから、夢見で后を決めるなどという馬鹿なことはやめなさい、と」
「馬鹿なこと……?」
「あっ、夢見を悪く言うつもりはないの! ごめんなさい。でも燦には綺羅ノ国の前途(みらい)がかかっている。王の立場にふさわしい行動を取るべきだと思うわ」
「分かっています。僕も、后を夢見で決めるのはよくないと思っています」

 花緒の言うことは正しい。
 燦の后選びを夢見で行うべきではないと、久遠もそう思う。

 しかし、燦の目的は違う。
 后選びを口実にして覡見習いの久遠を側に置いたのは、母親の(かたき)を探すためだ。

(花緒様は僕を燦様から遠ざけたいのかもしれない。でも僕は……燦様の側にいたい)

 最初は、十六夜家から逃げたいという気持ちだけだった。「お前を守ってやる」という燦の言葉に流され、身を預けた。

 でも今の久遠の気持ちは少し違う。
 燦が心の傷から立ち直るために真相を探りたい。その役に立てるのは久遠以外にいない。
 それに、過去に立ち向かおうとしている燦の側にいれば、久遠自身も過去の記憶から解放されて、強くなれる気がするのだ。

 久遠は花緒を見送り、燦の邸に戻った。
 これからまた落ち葉の掃除だ。(ほうき)をどこに置いたかと辺りを探していると、見覚えのある顔の男が門から入ってくるのが見えた。

(あれは、碧李家の当主……碧李輝比佐様か?)

 輝比佐は久遠がいるのに気が付くと、ゆっくりと近付いてくる。

(怖い。なんだろう……)

 碧李家は、十六夜家が(かんなぎ)として仕えるのを拒んでいる。やり手の若当主である輝比佐は、覡を信用していない。合議の場で輝比佐が父に送った冷たい視線を、久遠はまだ鮮明に覚えていた。

「……十六夜の(せがれ)か」

 久遠の目の前まで来た輝比佐が、淡々と言う。

「はい。海主・碧李家の輝比佐様ですね。燦様はご不在です。代わりに何かお伝えしておきましょうか?」
「いや、構わぬ。お前、先ほど庭で和暮の姫と歩いていたのを見たが」
「和暮の姫……あ、花緒様ですね。散歩にお供しておりました」

 ふうん、と一息ついて、輝比佐は腕を組む。久遠の顔を舐めるように見たあと、鼻で笑いながら言った。