「覚えていることが、事実ではない……とは」
「例えば、お前は先日、霖に会っただろう? 霖の母親は誰だ?」
「それはもちろん、日紫喜家の大后様です」
「その通り。大后、つまり碧李家から嫁いできた水縹姫だ。では、もう一つ。俺と耀の母親は誰だ?」
「えっと……あれ?」
……おかしい。燦と耀は、霖の兄である。
当然、燦の母親も大后であるはずが、久遠の口からその言葉がどうしても出てこない。
口をあんぐりと開けていると、それを見た燦が小さく頷いた。
「俺の言いたいことが分かるか? 俺にも母親がいるはずなのに、それが誰なのか分からない。不思議に思う者もいない」
「いえ、おかしな話です。考えようとすると、頭の中のその部分だけに濃い靄がかかるような感じがして、思考が止まって……」
「ああ。そういうことだ。燃える屋敷の前で母が斬られるのを、昔から何度も夢に見る。あの夢が事実なのか、それとも俺が作り上げた虚構なのか、もう俺自身にも分からないんだ」
「そんな……」
泣きそうだ。なぜ天は、燦に辛い夢を見せるのか。
五主家の間では、燦は横暴で粗野な男だと言われていた。しかし、それはすべて彼の孤独の裏返しではないのか。
「お前は見たのか? 誰が母を斬ったのか」
燦は追い詰められたような表情で、俯く久遠の顔を覗く。
「……いいえ、はっきり顔までは分かりませんでした。一本の光の筋が走ったのと、女の人の叫び声。それに燃える屋敷と積もる雪。僕が見たのはそれだけです」
「頼む、それをもっと詳しく知りたい」
「だから燦様は、僕に夢見をさせるのですか?」
「そうだ。俺の記憶の中にある燃える屋敷は、日紫喜家の裏にある宝物殿だ。あの場所に入れるのは五主家の者のみ。俺は、母を殺した相手を探している」
「燦様は、夢に見たことが事実だと考えているのですね。お母様を殺めた相手が五主家の中にいるかもしれないのに、后を迎えることはできないと……」
「その通りだ。母の仇と夫婦になるのは御免だからな」
燦の気持ちが痛いほど分かる。しかし、夢見によって親の仇を見つけるというのは、雲を掴むような話である。
久遠が視た、燦の夢の中の光景――燃える屋敷の前で女が殺められる場面――がそもそも真実なのか、そうでないのか分からない。
「例えば、お前は先日、霖に会っただろう? 霖の母親は誰だ?」
「それはもちろん、日紫喜家の大后様です」
「その通り。大后、つまり碧李家から嫁いできた水縹姫だ。では、もう一つ。俺と耀の母親は誰だ?」
「えっと……あれ?」
……おかしい。燦と耀は、霖の兄である。
当然、燦の母親も大后であるはずが、久遠の口からその言葉がどうしても出てこない。
口をあんぐりと開けていると、それを見た燦が小さく頷いた。
「俺の言いたいことが分かるか? 俺にも母親がいるはずなのに、それが誰なのか分からない。不思議に思う者もいない」
「いえ、おかしな話です。考えようとすると、頭の中のその部分だけに濃い靄がかかるような感じがして、思考が止まって……」
「ああ。そういうことだ。燃える屋敷の前で母が斬られるのを、昔から何度も夢に見る。あの夢が事実なのか、それとも俺が作り上げた虚構なのか、もう俺自身にも分からないんだ」
「そんな……」
泣きそうだ。なぜ天は、燦に辛い夢を見せるのか。
五主家の間では、燦は横暴で粗野な男だと言われていた。しかし、それはすべて彼の孤独の裏返しではないのか。
「お前は見たのか? 誰が母を斬ったのか」
燦は追い詰められたような表情で、俯く久遠の顔を覗く。
「……いいえ、はっきり顔までは分かりませんでした。一本の光の筋が走ったのと、女の人の叫び声。それに燃える屋敷と積もる雪。僕が見たのはそれだけです」
「頼む、それをもっと詳しく知りたい」
「だから燦様は、僕に夢見をさせるのですか?」
「そうだ。俺の記憶の中にある燃える屋敷は、日紫喜家の裏にある宝物殿だ。あの場所に入れるのは五主家の者のみ。俺は、母を殺した相手を探している」
「燦様は、夢に見たことが事実だと考えているのですね。お母様を殺めた相手が五主家の中にいるかもしれないのに、后を迎えることはできないと……」
「その通りだ。母の仇と夫婦になるのは御免だからな」
燦の気持ちが痛いほど分かる。しかし、夢見によって親の仇を見つけるというのは、雲を掴むような話である。
久遠が視た、燦の夢の中の光景――燃える屋敷の前で女が殺められる場面――がそもそも真実なのか、そうでないのか分からない。

