火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「うわっ! 燦様、起こしてしまいましたか?」
「耳元で叫ばれて、眠っていられるものか。何を探している?」
「すみません……大切な石が見当たらなくて」
「石? どんなものだ?」

 久遠は母の形見である石について燦に伝えた。翡翠(ひすい)でも水晶でも瑪瑙(めのう)でもない、どこにでもあるただの石ころ。そんなものを後生大事にしていると知られたら、笑われるかもしれないと心配したが、燦は久遠と一緒になって必死に探してくれた。

「……久遠。もしかして、これか?」

 寝台と褥の隙間に入り込んでいた小さな石を燦が拾った。

「それです! ありがとうございます!」

 手を伸ばし、燦から石を受け取る。手のひらに収まるほどのごつごつとした灰褐色の塊を見て、久遠の目から思わず涙がこぼれた。

 自分でも、これがなんの石なのかよく分かっていない。母の形見だと信じてはいるが、そもそも母に関する記憶が一切ないのである。
 それでも、この石が大切で愛おしくて、絶対になくしてはいけないものだということは分かる。

「見せてもらってもいいか?」
「はい……でも、ただの石ですよ?」

 久遠は燦に石を手渡す。燦はそれを、明かりの下でしげしげと眺めた。
 きっと馬鹿にされる――てっきりそう思ったのだが。
 燦の反応は、久遠の予想とは真逆だった。

「大切なものなのに、ただの(・・・)石なんて言うな」
「え?」
「どうしても手放せない大切なものなら、卑下して隠すな。堂々と、これは自分の宝だと言えばいい」
「僕の、宝……?」
「ああ。この石には、小さな穴が空いているじゃないか。首飾りにできそうだ」

 燦はどこからか飾り紐を持ってきて、石に空いた穴に通した。首飾りの形になったその石を、久遠の首にそっとかける。

「嬉しい……ありがとうございます。これで絶対に失くしません」
「……まったく。夜中に泣いて暴れるからだ。また俺の昔の夢を視たのか?」
「燦様の夢? あっ、そうだ……」

 やはり、あれは燦の夢の中だったのだ。

「恐ろしい夢でした。雪が降る中、お屋敷が燃えて……あれは、燦様の過去ですか?」
「そうだ。だが、俺もはっきりとは覚えていない。いや、覚えていることが事実ではなかった(・・・・・・・・)……と言うべきか」

 燦の言葉の意図が読み取れず、久遠は首を傾げた。