火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

(これは、また夢か……?)

 いつもはぼんやりと人影が見えるだけだったのに、今夜はやけに鮮明に見える。
 燦の夢に入り込んだのか、それとも現世なのかと迷っているうちに、気が付くと板塀に囲まれた屋外に立っていた。
 背後では、建物が炎を上げて激しく燃えている。

(火事! それに、すごい雪だ)

 夢の中だからか、熱さも寒さも感じない。しかし確かに背後では火が燃え盛り、足元には冷たい雪が積もっていた。

 ふと、一筋の光が目の前を走った。
 女の人らしき影が現れ、その光を受け止める。
 周囲には、真っ黒な別の人影がいくつか、女を取り囲むようにゆらゆらと揺れていた。

(炎に、雪……そして、これはなんだ?)

 激しい怒り、悔しさ、悲しみ、様々な激情が心に伝わってくる。そして、いつもなら聞こえない人の()が、はっきりと久遠の耳に伝わってきた。

『お前が、綺羅ノ王になどなれるものか……!』




「――うわああっ!」

 寝台の上で飛び起きる。
 そこが燦の寝室であることに気が付き、安堵のあまりに全身の力が抜けた。

(あれはなんだったんだ……?)

 まるで太刀筋(たちすじ)のような一瞬の光、そしてそれを受け止める女の影。振り続ける雪の中で建物が激しく燃える光景は、思い出しただけで恐怖が蘇る。

(あの光は、燦様の炎武の才に似ていた)

 額にぐっしょりかいた汗を手の甲で拭い、一度大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせる。
 眠っている間に暴れてしまったからか、衣の胸元が乱れていた。女であることを燦に知られてはいけないと、久遠は慌てて襟元(えりもと)を引いて合わせる。

 その時、いつも肌身離さず持ち歩いている物がなくなっているのに気が付いた。

「……あれ? どこ?」

 大切にしている、母の形見の石。小袋に入れて胸元に入れていたはずだ。
 夜闇の中でごそごそ探していると、燦が部屋の明かりを点けた。