火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 だが、いくら横暴で素行が悪いと言われる燦も、実兄である耀(よう)を亡くしたばかり。悲しくないわけがない。もしかしたら、耀と共に遊んだ幼い頃の思い出を夢に見たのかもしれない。

 燦の過去を想像しているうちに、なぜか自分が蔵の中で過ごした暗い過去と重なり、胸が締め付けられた。

「どうした、そんな顔をするな。お前らしくないぞ」
「僕らしいってどんな顔ですか」

 滲んだ涙と鼻水を腕でゴシゴシと拭く。
 燦は笑いながら、手に持っていた一枚の落ち葉を、久遠の頭のてっぺんに置いた。

「落ち葉の山に頭から突っ込んでいくくらいの、勢いと元気のある顔が似合う」
「だからって、頭にまた葉っぱを載せないでくださいよ!」
「いや、人を化かす(たぬき)のようで、よく似合うぞ。葉を一枚、頭に乗せて……美しい姫に姿を変える狸だ」

 燦の言葉が、久遠の胸にずしりと響く。たった一枚の葉で女に戻れるならば――久遠だって狸になりたい。

「僕は、姫になんか……なれません」

 久遠が絞り出すようにそう言うと、燦は「それもそうだ」と苦笑した。