火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

(燦様も王位に拘っているようには見えないから、別にいいのかな)

 燦は后を決める気など毛頭ないらしい。だから、久遠の夢見が失敗に終わっても、焦りもしないし怒りもしない。
 ではなんのための夢見だろう? とも思うが、それがなくなれば、久遠が日紫喜家に留まる理由がなくなる。久遠にとって、それはそれで不都合なのだ。

(わざわざ月の形の痣のことを言い出すくらいだから、花緒様も燦様の后になりたいのかな)

 愛する夫と死別してすぐに別の男に嫁ぐなんて、普通はできるものだろうか? もしも久遠が花緒の立場なら……と考えて、止めた。

(僕みたいな庶民と五主家の姫では、考え方が違って当然だ)

 王の后ともなれば、自分で自分の道を選ぶことはできない。愛やら恋やらは後回し。家同士の政略結婚が優先されるだろうから。
 花緒の心の内を考えたところで、分からぬものは分からぬ。久遠は頭を切り替えて、掃除に戻ろうと(ほうき)を握った。

「わっ、猫!」

 どこからか、一匹の猫が飛び出してくる。久遠がせっかく集めた落ち葉の山に、勢いよく飛び込んだ。
 ちょうどそこに木枯らしまでもが吹いてきて、落ち葉は庭一面に散らばる。

「こらーっ! 猫! またやり直しじゃないか!」

 ぷんぷんと怒りながら猫を追い回すが、猫のほうが一枚上手だ。久遠を馬鹿にしたようにあちこち飛び回り、一向に捕まらない。
 疲れて肩で息をする久遠をあざ笑うように、猫はしっぽを振りながら足を舐めた。久遠は猫の隙をつこうと、背後に回って静かに忍び寄る。

「……捕まえたぞっ!」

 手を伸ばして飛び掛かるが、猫はその手をすり抜けてさっと逃げた。飛んだ勢いで、今度は久遠が落ち葉の山に頭を突っ込んだ。

「……お前は馬鹿か」

 呆れたような冷たい声がかけられる。
 落ち葉の山の中から顔を出すと、久遠のすぐ後ろで、燦が腕を組んで見下ろしていた。

「燦様! せっかく集めた落ち葉を、あの猫が」
「だからと言って、猫を追い回すやつがいるか? 来い。頭が落ち葉だらけだ」

 燦はまるで猫を掴むように、久遠の衣の首根っこを掴み、その場に立たせる。髪や衣に付いた落ち葉を、一枚ずつ丁寧に取ってくれた。

「燦様、お手間をかけてすみません」
「珍しく素直じゃないか。菓子を持ってきた。食べるか?」
「菓子!? 食べます!」