火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

(人使いがっ……! 荒すぎる!)

 十六夜家の父と兄から離れ、都の日紫喜家に戻ってきた久遠は、燦に振り回される毎日を送っていた。

 従者、という立派な呼び名が付けられてはいるが、実態はただの小間使い。十六夜家にいたこれまでと何も変わらない。
 屋敷の掃除、洗濯や着替えの手伝い、ちょっとした届け物や文の整理。これまでの務めと違うところと言えば――毎晩の、王の夢見(・・)だけである。

 久遠の夢見は半人前で、上手く夢に入り込めてもはっきりとは見えない。ぐっすり眠ってしまい、朝起きた時には見た夢をすっかり忘れていることだってある。それなのに、燦は久遠の夢見の腕を過信している。

 確かに、花緒の懐妊について言い当てたことは認める。が、肝心の夢見――燦の后を誰にするか――については、曖昧にしか答えを出せていない。「胸に月を抱く姫」が誰を指しているのか、分からないからだ。

(花緒様は、胸に月の(あざ)があると仰ったけど……)

 二代続けて同じ家から王后を輩出してはいけない、という決まりに従うならば、花緒は燦の后にはなれない。
 ただ五主家の間では、その決まりは天が決めたものではないから、厳密に従う必要はないのではないかという意見も出ている。
 人という生き物は、随分と都合がいいな、と思う。

 燦は横暴な性格で素行が悪く、平たく言えば、五主家の面々から嫌われている。
 燦の后にはなるのだけは御免(ごめん)だ、と考える姫も多いという。

 そこにきて分かった、花緒の懐妊。
 花緒の子が男児なら、燦は下手すれば数年で王位をその子に譲ることとなる。幼い王の外戚となれば、その家が綺羅の政の実権を握るも同然だ。
 外戚として力を付けたい五主家は、燦よりも、これから生まれる花緒の子のことしか考えていないように見える。

 唯一、烽火家だけは燦との婚姻に前向きなようだったが……それも、十六夜の父から聞いたことなので、真実かどうかも不明である。