火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 数年後には弟が生まれた。(りん)と名付けられた年の離れた弟は、目に入れても痛くないと思えるほどに可愛かった。

 そこで燦は再び、不思議に思った。
 碧李家から嫁いできた二十六歳の母が産んだのは、霖だけだ。
 では、耀と燦を産んだのは誰だ?

 しかし、燦はその問いを心の奥深くにしまった。



 ふと目を覚ますと、隣で久遠が眠っている。
 素直に横になればいいのに、この少年はいつも意地を張って、寝台の横に座ったまま夢見をしようとするのだ。

 寝台に突っ伏してすやすやと眠る久遠を抱き上げ、自分の隣に寝かせるのが、最近の燦の日課となっている。

(顔が青白いな)

 冷え切った頬にそっと触れる。燦の手の熱で温まった久遠の頬は、ふんわりと柔らかい。
 ゴツゴツして筋張った自分とは違い、久遠の肌はまるで、赤子の頃の霖のようである。思わず久遠の首元に顔を埋めて噛みついてやりたいような衝動に駆られたが、この少年を怖がらせるわけにはいかないので止めておいた。

 燦は久遠と手を繋ぎ、仰向けに寝転んで天井を見上げる。

 もうすぐ、冬が来る。
 底冷えする寝室で、毎晩のように掛布も使わず夢見をしていては、いつか久遠は風邪を引いてしまうだろう。

 夢見を止めれば済む話だと分かっている。
 しかし、燦はどうしても久遠を手離せなかった。孤独で寒い夜に、温もりが欲しかった。

 すうすうと寝息を立てる久遠に、もう一度目を向ける。
 どんな夢を見ているのだろう。
 少年の目には、一筋の涙が流れていた。