火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 燦が心の中で叫びを上げた瞬間――耳をつんざくような音を立てて、雷が落ちた。あっという間に宝物殿に火が回り、激しく燃え始める。

 横殴りに振り続ける大雪の中で、真っ赤に燃える炎。
 その光景が、燦の目には異様に映った。

「宝物殿が燃えているぞー! 早く火を消せ!」

 いち早く逃げ出した先ほどの女官が呼んできたのか、人の声が聞こえてくる。
 しかし、宝物殿に人が近付くのを拒むように、天は何度も雷鳴を轟かせた。

 先ほどやって来た少女も、少女を火から守ろうと抱きしめる香宵(かよい)という女も、激しさを増す風と雪の中で動けずうずくまっている。
 香宵は少女を抱くのとは反対側の手で、既に息絶えた燦の母の背中に手を添えた。

義父上(ちちうえ)! ここに留まっていては、すべて焼けてしまいます! とにかく、蘇芳(すおう)と一葉を安全なところへ!」

 
「蘇芳姫は死んだ。放っておけ」
「罪を上塗りなさる気ですか! このままでは、蘇芳を陽主にお返しできない……天のお怒りが大きくなりますよ!」

 涙に(むせ)びながら、香宵は懸命に訴える。

 宝物殿を囲む板塀の向こうには、既に大勢の衛士(えじ)が集まり始めている。周囲を取り囲まれて逃げ場がないと思ったのか、男は諦めたように大きく息を吐いた。

「ええい、分かった。蘇芳姫を運ぼう。その代わり、お前は才を使って皆の記憶を消せ」
「……どういうことですか?」
「久靄家の霧中(むちゅう)の才を使い、記憶を消せと言っているのだ! 我々が陽主から火輪剣(ひのわのつるぎ)を奪おうとしたことも、蘇芳姫を殺めたことも、ここで起こったことはすべて、初めからなかったことにせよ!」
「卑怯者! 皆の記憶を消したところで、義父上と旦那様の罪はなかったことにはなりませぬ!」
「早くしろ! これは取引だ」