右手を挙げて、その手に炎を出そうと気を溜めた。
燦の動きに気が付いた母は、最期の力を振り絞って立ち上がる。母を斬った男の手にあった火輪剣に手を伸ばし、不意を突いてその刃を両手で握った。
「うわあっ! 放せ!」
「黙りなさい……火輪剣を奪おうとする者は……必ず天の怒りを買う……お前が、綺羅ノ王になどなれるものか……!」
手から血を流しながら、母が大声で叫んだ。それが最期の言葉だった。
男が力を込め、母の腹に剣が突き刺さる。深く刺さってもなお、母はその刃を放さなかった。
命をかけて火輪剣と、そして燦を守ったのだ。
「父上、人が来ます!」
「……くそっ! 蘇芳姫にさえ見つからなければ!」
「火輪剣が抜けません、諦めるしか」
雪が勢いを増した。強い風が吹き始める。
(母上が雪に埋まってしまう! 早く助けないと)
しかし、ここで燦が飛び出せば、母と同じように斬られて命を落とすだけだ。燦を守ろうとした母の思いが、無に帰してしまう。
「……おじいさま、おとうさま!」
風雪の強まる中、バチャバチャと沓音をさせて、小さな女の子が駆けてきた。
(危ない!)
声が出そうになり、燦は慌てて自分の口を押さえる。
「一葉姫さま、危のうございます! 雪で濡れる前に早く中へ……っ、きゃああっ!」
女の子を追ってきた女官の一人が、倒れて血まみれの母を見つけたようだった。その後ろから、身分の高そうな女性も駆け付けた。
「……香宵、この女官は一葉の侍女か?」
「はい、義父上。これは一体どのようなことでございますか。蘇芳を……綺羅ノ王の后を、その手で殺めたと?」
「火輪剣を手に入れようとしたところに、ちょうど蘇芳姫が現れたのだ。咄嗟に斬ってしまった」
「なんと恐ろしいことを! 天がお怒りです。これから大嵐となりましょう。王の后を手にかけるなど、綺羅を滅ぼすほどの大罪です。我々は、咎を受けねばなりませぬ」
天の怒り――それは、綺羅ノ王后である燦の両親が最も恐れているものだった。
かつて、ここ綺羅に起こった主家同士の争いのせいで天がお怒りになった。大嵐が国を襲い、綺羅は一度滅びかけたが、日紫喜が王として国を治めることとなり収まったという。
燦の動きに気が付いた母は、最期の力を振り絞って立ち上がる。母を斬った男の手にあった火輪剣に手を伸ばし、不意を突いてその刃を両手で握った。
「うわあっ! 放せ!」
「黙りなさい……火輪剣を奪おうとする者は……必ず天の怒りを買う……お前が、綺羅ノ王になどなれるものか……!」
手から血を流しながら、母が大声で叫んだ。それが最期の言葉だった。
男が力を込め、母の腹に剣が突き刺さる。深く刺さってもなお、母はその刃を放さなかった。
命をかけて火輪剣と、そして燦を守ったのだ。
「父上、人が来ます!」
「……くそっ! 蘇芳姫にさえ見つからなければ!」
「火輪剣が抜けません、諦めるしか」
雪が勢いを増した。強い風が吹き始める。
(母上が雪に埋まってしまう! 早く助けないと)
しかし、ここで燦が飛び出せば、母と同じように斬られて命を落とすだけだ。燦を守ろうとした母の思いが、無に帰してしまう。
「……おじいさま、おとうさま!」
風雪の強まる中、バチャバチャと沓音をさせて、小さな女の子が駆けてきた。
(危ない!)
声が出そうになり、燦は慌てて自分の口を押さえる。
「一葉姫さま、危のうございます! 雪で濡れる前に早く中へ……っ、きゃああっ!」
女の子を追ってきた女官の一人が、倒れて血まみれの母を見つけたようだった。その後ろから、身分の高そうな女性も駆け付けた。
「……香宵、この女官は一葉の侍女か?」
「はい、義父上。これは一体どのようなことでございますか。蘇芳を……綺羅ノ王の后を、その手で殺めたと?」
「火輪剣を手に入れようとしたところに、ちょうど蘇芳姫が現れたのだ。咄嗟に斬ってしまった」
「なんと恐ろしいことを! 天がお怒りです。これから大嵐となりましょう。王の后を手にかけるなど、綺羅を滅ぼすほどの大罪です。我々は、咎を受けねばなりませぬ」
天の怒り――それは、綺羅ノ王后である燦の両親が最も恐れているものだった。
かつて、ここ綺羅に起こった主家同士の争いのせいで天がお怒りになった。大嵐が国を襲い、綺羅は一度滅びかけたが、日紫喜が王として国を治めることとなり収まったという。

