火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

(母上はどこ……!)

 雪がしんしんと積もる中、燦は母を探して歩く。屋敷の中にはいない。ふと外を見ると、庭に積もった雪の上に、母のものらしき足跡が点々と残っていた。
 裸足のまま、雪の上に下りて走る。心臓が口から飛び出しそうなほど早鐘を打ち、顎がガクガクと震える。

 足跡は、屋敷裏の宝物殿のほうに続いていた。
 あそこには、日紫喜家が天から授かった宝物、火輪剣(ひのわのつるぎ)が収められている。
 建物沿いに進み、曲がり角を右に曲がれば、宝物殿が見えるはず――しかし、燦が建物の角を曲がる直前、その場に母の悲鳴が聞こえた。

(何があった……!?)

 燦は咄嗟に、建物の縁側の下に身を隠して覗き見る。
 前方には、扉が開いたままの宝物殿。そしてその手前、人の顔がなんとか判別できるかという距離に、女がうつ伏せに倒れていた。
 積もったばかりの白い雪の上には、赤い染みが広がっていく。

「――其方(そなた)はまさか、久靄(くもや)蘇芳姫(すおうひめ)か。よりによって、陽主の后に見つかるとは」
「父上、まだ息があります。とどめを刺しましょう。火輪剣を奪ったのが我らだと知られてしまいます……!」
「黙れ! 誰かが聞いておったらどうする」

 倒れた母のすぐ横で、男が二人、言い争いを始めた。後ろにいる背の低い男は、衛士が身に着ける綿冑(めんちゅう)のようなものを被っており、顔が見えない。そしてその手前、《《父上》》と呼ばれた初老の男の手には、血のついた剣が握られている。

 雪の上に倒れ、肩を震わせながら男たちを睨みつける母の姿を見て、燦は母の命が尽きようとしているのだと察した。

(なぜ……! なぜ、母上を斬ったんだ!)

 今すぐここから飛び出して、母を守りたい。だが、幼い自分の手では守り切れない。
 父を呼びに走る? このまま自分が飛び出す?
 涙を堪えて必死で考えていると、倒れている母と目が合った。

 ――絶対にそこから出て来るな。

 母の目が、はっきりと燦にそう訴える。

(母上……!)

 涙を堪え、息を殺し、燦は身を隠した柱に頭を打ち付けた。

 落ち着け。母にはまだ息がある。今なら間に合う。
 燦は、男たちに飛び掛かろうと心を決めた。一人では使うなと禁じられてはいるが、今こそ炎武の才を使う時。

 柱から顔を出し、母に視線を送る。