火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 燦は父に殴られた久遠を助けてくれたが、これからも久遠を守ってくれるとは限らない。燦が夢見に飽きれば、久遠はいつかまた十六夜の里に戻ることになる。
 行き先はきっと、あの蔵の中だ。

 久遠の体の震えを抑えるように、燦の腕に力が入った。

「久遠。お前を俺の従者として雇ってやる」
「……従者? 僕がですか? こんな弱っちいのに、役に立ちません」
「何を言う。お前のおかげで、后選びを先延ばしにできた。早速役に立っているじゃないか」
「あれは、僕の手柄ではないですよね?」
「つべこべ言うな。お前は俺の従者として仕え、夜は夢見をするんだ。さすがの十六夜も、王の寝室に忍び込むことはできないだろう」
「え? それはどういう……」
「お前を守ってやる、という意味だ」

 燦は顎を上げたまま、ふんと鼻を鳴らした。

(僕を……守ってくれるの? 燦様が?)

 腕に抱かれたまま、久遠は燦の顔を見上げる。

 その時、見渡す限り遮るものが何もない一本道に、ぴゅうと木枯らしが吹いた。
 燦の黒髪が揺れる。
 久遠は、燦の胸の温もりに身を預けた。