火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

(そうだよな。月を抱く者、なんて言われても、ご当主様たちも困るだけだよ)

 結論を待ちきれなくなって最初に口を開いたのは、烽火(のしろ)家当主だ。

「王よ。胸に月を抱く姫というのは、どういうことでしょう?」
「知らぬ!」
「し、知らぬと申されても……それでは、十六夜久遠とやらに聞きましょう。久遠、お前が夢見をしたのだろう?」

 烽火から急に話題を振られ、久遠は思わず「ひっ」と声を漏らした。

「烽火殿。久遠に聞かずとも、俺が夢見の結果を伝えたではないか」
「ですが、どの家のどの姫のことを指しているのか分かりませんと、我々も何も動けませぬ」

 久靄(くもや)和暮(わぐれ)の当主も、烽火に同意して頷いた。
 燦はこの場をどう収めるつもりだろう。寝室では「心配するな」と言っていたが、どう考えてもこの結論では当主たちを説得することはできない。

(月を抱く姫……あの女の人は、誰だったんだろう?)

 はっきりとは見えなかったが、どこかで見たことがある横顔だった。懐かしいような、切ないような、見ていると理由もなく涙がこぼれるような……そんな女性。

「あの、私から少しよろしいでしょうか」

 混乱の中、これまで沈黙を守っていた花緒が口を開く。

「燦の后となるのは、胸に月を抱く者……と仰いましたね?」
「ああ。花緒、誰か心当たりでも?」
「ええ。私のことなのですが……生まれつき、胸元に月の形をした(あざ)があるのです。まさかとは思いますが、久遠が夢に見たのは、その痣ではないでしょうか」

 当主たちの目の色が変わる。常に冷静な輝比佐も、今度ばかりは驚いて目を見開いた。

 皆の考えていることは同じだ。
 花緒は、和暮家から前王である耀に嫁いだ后。
 だから、花緒は新王・燦の后にはなれない。二代続けて同じ家の娘が后になることで、天の怒りを買ってしまうのではないかという懸念がある。

(それに、花緒様は前王の御子を懐妊中で……)

 結局、花緒の申し出にどう対応すべきか、五主家の間でも意見が分かれる形となった。その日の合議では燦の后は決まらず、保留となったのであった。


   ◇


「ふざけるな! お前は何をやってくれたのだ!」

 頬に痛みが走り、久遠の体は激しく地面に投げ出された。