火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「お前に夢見を頼んだのは俺だが、仮にも王の寝室でくつろぎすぎじゃないか? 主よりも寝坊した上、いびきまでかくとは」
「いびき!?」

 あまりに驚いて、声がひっくり返る。確かに昨晩、久遠は燦の夢見をしようと手を握った。寝惚けた燦に引っ張られ、寝台に横になったのは覚えている。
 背中の温もりが心地よくて、そのまますっかり眠ってしまったのだ。

(夢見の結果……どうだったっけ)

 花緒の時と同様、はっきりと燦の夢が見えたわけではない。夢に出てきた女が誰なのか、確かめることもできなかった。

(でも、あの人が燦様の后になる人……)

 一筋の光が走り、その後に現れた一人の女。
 彼女が胸に抱えていたのは――月、だ。

 もちろん、実際に抱えていたのは月ではなく、ただの光であったのだが――なぜか久遠の心の中には、「あの光は月だ」という言葉が浮かんだ。
 夢見の結果を、そのまま燦に伝える。燦は一通り久遠の話を聞くと、真剣な顔をして寝台の上にあぐらをかいた。

「……月を胸に抱く女?」
「はい」
「月を抱くとは、どういう意味だ?」
「僕もよく分からないんです。ぼんやりと光る何かで、でも僕はそれをはっきりと月だと感じました。夢の中なので、現世とは少し見え方が違うのです」

 こんな説明で伝わるのだろうか。不安に思いながら燦を見つめていると、彼は久遠の肩に手を置いた。

「月を胸に抱く者と言われても、具体的にどの姫のことを指しているのかは分からんが、むしろこの結果は都合がいい」
「都合がいい?」
「ああ。久遠、よくやった」

 思いがけず褒められて、久遠は頬を染める。

(僕の夢見で王の役に立てた……のかな?)

 どの姫のことを指しているのか分からないほうが、都合がいい? どういう意味だろう。
 ぼんやりしている久遠を寝台に残したまま、燦は立ち上がって伸びをする。昨晩脱いだ(ほう)を手にとったところで、部屋の外を走る小さな足音が近付いて来た。
 朝日が差し込む連子窓(れんじまど)の向こうからちょこんと覗いたのは、子どもの影だ。

(りん)か?」
「はい! 兄さま!」

 元気な返事に続いて、戸が開く。そして、燦の胸に一人の少年が飛び込んできた。

「燦兄さま、おはようございます!」
「おはよう、霖。よく眠れたか?」
「はい!」