火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 あの時は、花緒の夢見をしようと思ってしたのではない。ただ嵐が怖くて手を握っているうちに、自然と花緒の夢の中に入った。

 だが今日はあの日とは違う。
 久遠の夢見には、綺羅ノ国のこれからがかかっている。
 正しく夢見をしなければと思えば思うほど、心が追い詰められて、目にじんわりと涙が滲んだ。

 その時――寝惚けているのか、燦が久遠の手を強く引いた。
 久遠は寝台の上、燦の隣に倒れ込む。暗闇に目が慣れたのか、拳二つ分ほどの、すぐ目の前に燦の顔がはっきりと見えた。

(男の人の顔を、こんな間近で見ることはそうそうないな……)

 男装している自分と、燦のような本物の男では、別の生き物のように感じてしまう。
 すっと通った鼻筋、引き結ばれた口元。頬から首にかけての筋はがっちりとしていて、肩幅は久遠とは比べ物にならないほど広く、包容力がありそうだ。
 不可抗力とはいえ、男と並んで寝台に横になっているのだと思うと、久遠の頬が緊張で熱くなる。

(そもそも僕は女なんだからな! 人の気も知らないで)

 せめてもの抵抗で、久遠は燦とは反対側に体を向けた。これで彼の顔が目に入ることもない。

(僕が女だと知っていたら、夢見には父上か兄上を指名してくれたんだろうか)

 部屋の外から聞こえる虫の声に耳を傾け、久遠は目を閉じる。
 記憶にある限り、久遠は女の格好をしたことがない。

 久遠が覚えている最初の記憶は、真っ暗闇に包まれた狭い蔵の中(・・・)のことである。