火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 願わくは、今からでも夢見を止めると言ってほしい。しかし久遠の願いはほんの一瞬で砕け散った。

「自信などなくていい。本心を言えば、俺は后など誰でもいいと思っている」
「誰でもいい? それはいけません! 后は次代の王母となるかもしれない御方です。ですから、今からでも僕の兄や父に交代を」
「主家の息のかかった覡など信用できるか。その点、お前はいい。どの主家とも繋がりがない」
「……僕が、父や兄から夢見の結果を指図されているかもしれないじゃないですか」
「指図されているのか?」
「いや、それは……されていませんけど……」
「では決まりだ。さっさと夢見をしてもらおう。俺がここで眠ればいいのか?」
「はい。僕が燦様と手を……繋がせていただきます」

 燦は頷いて、寝台の上に横になる。久遠が床に座ったままじりじりと寝台に近付くと、燦は久遠の手首を握ってぐいと引いた。
 その勢いで、久遠は燦の体の上に倒れ込む。

「わっ!」
「久遠。お前は一晩中床に座っているつもりか? 寝台で、俺の隣に横になればいい」
「……いやっ!? それは遠慮致します! 座っていないと、夢見に集中できませんから!」

 燦は久遠のことを男だと思っているから、こうして遠慮なく距離を詰めてくるのだ。
 隣に横になって眠ったりしたら、何かのはずみに女であることを知られてしまうかもしれない。それに、久遠にも一応、女としての隠れた恥じらいというものがある。男装していても、久遠は身も心も女なのだ。

 燦から視線を逸らし、久遠は部屋の明かりを消した。
 暗闇の中、掛布の下を探って、燦の手を握る。

 上背があるからか、燦の手はとても大きい。繋ぐというよりも、すっぽりと包まれるような感覚だ。
 この手から、どんな夢が伝わってくるのだろう。

(お願いです。夢に誰も出てこないで――)

 そう願いながら、久遠も目を閉じる。
 どれくらい時が経ったか――燦の静かな寝息が耳に入った。

(全く……花緒様といい燦様といい、随分と不用心な人)

 しっかりと握り合った手には、汗が滲んでいる。一度放そうとすると、寝惚けた燦がぎゅっと握り返してきた。久遠は汗を拭くのを諦めた。
 いよいよ、燦の夢見をする定めからは逃げられそうにない。

(花緒様の時は、どうして上手くいったのだっけ)

 嵐の夜のことを思い出す。