火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「久遠、そこに座れ。あまり緊張しなくてもいい。ここには俺以外には誰も来ない」
「はい……」

 王の寝室に入って、緊張せずにいられるわけがない。久遠は燦から手渡された敷布を丁重に断って、冷たい床の上に腰を下ろした。

 ここに通される前、久遠は小刀の類を隠し持っていないかと調べられそうになり、あわや身ぐるみ剝がされる寸前だった。拒めば疑われるし、脱げば女であることを暴かれてしまう。

 万事休すというところで燦が現れ、「調べる必要はない」と言って寝室まで通してくれたのだった。
 燦の到着がもう一歩遅ければ、どうなっていただろう。そう考えただけで、背中に悪寒が走る。

 燦は帯を解いて(ほう)を脱いだ。内着の胸元をくつろげると、寝台の上に腰を下ろす。
 久遠は燦に聴こえないように、こっそりと唾を呑み込んだ。
 本当に、自分に王の夢見ができるのだろうか。不安でがたがたと手が震える。

「久遠。花緒の懐妊を言い当てた時、どのようにして夢見をしたんだ?」

 すっかりくつろいだ燦が、寝台の上に横になりながら久遠に聞いた。

「はっ、はい! あの時はとても眠くて、花緒様と僕が隣に並んで眠ってしまったのです。恐らくその時に花緒様の手に触れて、そこから花緒様の夢が僕の頭に見えるようになって……」

 あまり詳しく言うのも憚られる。花緒が前后だと知らなかったとはいえ、夫以外の男と一晩を過ごした話は、外聞がよくない。
 だが、燦はそんなことを気にする様子はない。

「夢見では、子の性別も分かるのか?」
「いえ、そこまでは……。僕はまだ見習いですし、夢見もはっきりと見えるわけではないのです。一度目の前が真っ暗になって、それからぼんやりとした影がだんだん見えてきます。人の声も耳に聞こえてくるというよりは、心に伝わって理解するという感じでしょうか。だから、今夜の夢見にも、僕は自信がありません……」