火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 怯える久遠とは対照的に、燦は余裕の笑みを浮かべながら立ち上がる。ゆっくりと一歩、父に近付き、その肩に手を置いた。

「十六夜の覡よ。俺は今夜の夢見に、十六夜久遠を指名する。久遠は主家との繋がりはない。私利私欲のために、夢見の中身を捻じ曲げることもないだろう。いいな?」
「燦王……お待ちくだされ」

 父の苦しそうな声は、燦の耳には届いていないようだった。

(今夜、僕が燦様の夢見をする? 燦様の夢に出てきた者を后とするために?)

 外は雲一つない青空が広がっているというのに、久遠の目の前は、まるで嵐の夜のように真っ暗だ。


   ◇


 合議が終わり、小間使いとして夕餉の支度や片付けを手伝っているうちに、すっかり夜になっていた。冬が近づいているからか、随分と日が短くなっている。
 御殿にある燦の寝室も、夜のひんやりとした空気で充ちていた。
 本来ならば、ここは久遠のような身分の者が足を踏み入れられる場所ではない。だから、この冷たい空気でさえも貴重な気がして、吸い込むのが憚られた。

(これが王の寝室……想像と違うな)

 あまり大きくはない部屋の壁には、天井まで届きそうなほど大きな屏風と、木でできた寝台のみが置かれている。ほかには何もなく、随分と殺風景だ。
 ただ、六曲一双(ろっきょくいっそう)の屏風に描かれた絵はとても華やかで、久遠はその絵に惹かれて見入ってしまった。

「これは、五主家の絵かな……?」

 中央あたり、右から三番目の(せん)には、陽主の宝物・火輪剣(ひのわのつるぎ)を操る男の絵が描かれている。

 五主家はそれぞれ、天から与えられた宝物を持つ。王である陽主・日紫喜家の宝物が火輪剣であることは、この綺羅ノ国に住む者なら誰でも知る話だ。もちろん、久遠はその現物を見たことはないのだが。
 ほかの扇にも、海や林、雲などの絵が描かれているので、恐らくこの屏風は五主家を描いたものに違いない。

 ただ、一番左側にある扇だけは、何も描かれていなかった。