火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「言い訳にもならぬわ。やはり、夢見の価値も大したことはない。それに、もしも燦王が今夜、五主家以外の女の夢を見たらどうする。主家の外から后を迎えれば、それこそ天意に背くことになるのではないか?」

 碧李と十六夜の間の緊迫した空気を取り払うように、燦が乱暴に輝比佐の袖を引いた。

「まあまあ、聞け! 俺は五主家以外の相手を夢に見れば、もちろんそれに従って娶るつもりだ」
「燦王。主家の外の血が混じれば、日紫喜家の陽主としての才も薄れていきますぞ」

 燦と輝比佐の応酬を聞き、父が小さく舌打ちする。燦がこのまま輝比佐に言い含められては堪らないと考えたのだろう。自ら燦の目の前に進み出て座り、深々と頭を下げた。

「燦王、碧李殿。どうか十六夜に夢見をお任せください。我らとて綺羅ノ国の民にございます。昨年から天の怒りの嵐が続き、里も疲弊しています。私もしくは息子の匠人が、夢見の才を使って王をお救いしましょう。燦王のお望みのほうをご指名くださいませ」
「ほう。俺が覡を選んでもよいのだな?」
「もちろんでございます」
「分かった。では、あの者を頼む」

 燦の視線と、久遠の視線が、まっすぐに合った。

(え?)

 袖で目をこすってみるが、やはり燦の瞳は久遠に向けられている。

「僕……ですか?」

 朝堂(ちょうどう)にいる全員が、振り返って久遠を見ている。父は顔を上げ、慌てて否定した。

「燦王、あの者は覡ではございませぬ! 単なる小間使いとして参上させました」
「いや、違うな。お前たち十六夜家の覡が知らなかった、花緒の懐妊。それを見事に言い当てたのはあの者だ。そうだったな? 久遠!」

 名を呼ばれ、久遠は背筋を伸ばす。

「は、はい。それはそうなのですが……」
「お前は十六夜家の息子でありながら、まだ覡としていずれの主家にも仕えていない。間違いはないな?」
「僕はただの見習いです。主家のご当主様にお会いしたのは、これが初めてでございます」

 烽火(のしろ)が、久靄(くもや)が、碧李が、そして父が――久遠に鋭い視線を向けている。怖い。
 燦の意図を汲み取れないまま、もしも不用意な言葉を発してしまったら――このあと、父からどんな扱いを受けるか分からない。膝の上に置いた手が小刻みに震えた。