火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 父と兄は顔を見合わせ、満足気に何度も頷き合っている。これまで入り込めなかった日紫喜(ひしき)家に取り入る絶好の機会だと考えているのだろう。
 未熟な久遠とは違い、父や兄は夢見の才に自信を持っている。綺羅(きら)ノ王后を決めるという重要な仕事を任せられてもためらわないほどの、確固たる自信だ。

(僕には、できないけどな……)

 主家に仕え、才を使って先視(さきみ)をするのが、覡としての仕事である。
 だが、先視は先視。覡が視た夢を聞き、その通りに動くかどうかを決めるのは、各主家当主の責だ。
 だが、燦ははっきりと「夢見で后を決める」と言った。后を選ぶ責を、覡に押し付けるようなものではないか。

(任が重すぎるよ)

 久遠はこの時ほど、自分が見習いの立場で良かったと感じたことはなかった。

詮無(せんな)いことを」

 絶句する面々の中、碧李(あおい)家の輝比佐(ひるひさ)が口を開く。

(さん)王はご存知ないかもしれませんが、我が碧李家を除く三主家には、以前より十六夜の覡が仕えております。夢の内容を偽り、特定の主家に有利な先視を行うこともできましょう。真実かどうかも分からぬ夢見に、綺羅の大切な判断をお任せになるのですか?」

 輝比佐は夢見に反対のようだ。
 もう少しで日紫喜家に入り込めたところを、碧李家に横槍を入れられた形になり、父は床の上で頭を下げたままギリギリと歯噛みした。

「碧李殿、私は十六夜家の覡、十六夜万葉人(まはと)と申します。我ら覡は、夢見を通じて天の声を聞いているのです。各主家から金や銭貨(せんか)を積まれたところで、天意が変わることはございませぬ」
「碧李家は覡の言葉など信じぬ。現に、三主家に仕えている十六夜家の覡は、花緒殿の懐妊について誰も言い当てておらぬではないか」
「それは……天が我々にお見せにならないものを、夢に見ることはないからです」